愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
2 結婚の理由



夕暮れの光景は、真っ暗なときのものとはまた一味違った。

ビル群の輪郭がくっきりと赤紫色に象られ、空の高い部分にかけてグラデーションがかって濃い色に変わってゆく。
ぽつぽつとライトアップし始めた街灯やビルの照明が、街を流れる川に反射して水面がキラキラ光っている。
幻想的な世界を一望できる、圧巻の光景だった。

初めて訪れたときはここに住むことになるなんて思いもしなかった。

私は今日、月島くんのマンションに引っ越してきた。
先日一度、夜にお邪魔して寝てしまった、あの超高級高層マンションだ。

結婚を前提に付き合う期間をすっとばし、私は月島くんと結婚する。
他人事のような言い方だけれど、自分が一番実感が湧いていない。

両親に成り行きを報告した際は、すごく喜んで私を送り出してくれた。
月島くんは同級生で素性もよく知っているし、国内大手の不動産会社、月島不動産の御曹司。
きっと月島くんになら私を任せられると思ったのだろう。

それに、両親があっさりとした態度だったのは、おそらく私が結婚して引っ越しても、仕事で毎日のように会えるからだと思う。

私もそれはうれしいし、ここに住んで素晴らしい見晴らしを眺められるのも喜ばしいのだけれど、なんだかこの状況が現実ではないような気がしてならない。

ぼんやり荷解きしていたら時間がかかってしまい、空は一日を終える時間帯に入っていた。


「毛利さん、コーヒー淹れる?」


うしろから声をかけられ、私はハッとして振り向く。目に入った壁の時計の数字にギョッとした。


「ううん! ごめんなさい、もうこんな時間だったね。すぐ夕飯の準備をするから」


暮れゆく窓の外の景色に釘付けだった私は、急いでキッチンに向かった。


「急がなくていいよ。掃除もしてもらったし、疲れたでしょ?」
「平気、平気。すぐできるからちょっと待ってね」

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