愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
3 不安な気持ち



梅雨晴れの日曜日。
長く続いた雨が止んで、重苦しい灰色の雲に覆われていない空は清々しく、マンションの窓から入ってくる空気がとても気持ちいい。

このところ仕事が忙しく、ふたりの時間があまり取れなかった。
涼介さんはマンション建設の件、私は毛利亭でジューンブライドの予約が立て込んでいるからだ。

ようやくお互いの両親から保証人のサインをもらえて、ふたりで婚姻届に記入することになった。


「緊張するなぁ」


言いながら、スラスラ記入し始めた涼介さんはとても達筆で、書く姿勢も美しい。
私は真剣な姿を盗み見ながら、婚姻届が入っていた封筒に試し書きをする。

これが無事に受理されたら、〝毛利菜緒〟から〝月島菜緒〟になるんだ……。
黒いペンで書いてみると新鮮で、なんだかこそばゆい気分。


「はい、菜緒の番だよ」
「あ、うん!」


婚姻届の用紙をこちらに渡され、私も涼介さんが記入した部分をお手本にして書いた。
達筆さまでは真似できなかったけれど。


「婚約指輪も早く買わないとな」


用紙に走らせていたペンを、私はピタリと止めた。


「指輪は、こないだお母様に頂いたものがあるし」
「あれはあれとして、もっとちゃんとしたの買うよ」
「いいよ、わざわざ新しいものもだなんて」
「菜緒がよくても、俺がよくないんだよ」
「でも、お母様から頂いたものを大切にしたいし」


押し問答が続き、涼介さんはお手上げだとでも言いたげに首を振り、ため息をついた。


「わかった。菜緒のそういうところも好きだよ」


その台詞に私は閉口する。
甘い雰囲気でもなんでもなかったのに。サラッと言われた方は、恥ずかしくて堪らない。
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