泡沫夢幻




ドドーンッ

大きな音が鳴り響き、夜空に大きな花が咲いた。
隣には浴衣を着たひよりが目を輝かせている。

「また来年も一緒に来ようね?」
家まで送り届けると、玄関で下駄を脱いだひよりは名残惜しそうにそう言って首を傾げた。そんな彼女の頭を無言で撫でて帰路につく。


1人夜道を歩きながら、どうして今ここにいるのだろう、と思い巡らせた。
充実していたはずなのに何も思い出せない。

たしかにスマホのアルバムには、2人で撮ったであろう写真が残っているのに思い出そうとしても、脳内を支配するのは恐怖の一言で。

その原因は、はっきりとわかっている。

それは、ひよりが椿さんから月下美人の鉢植えを受け取った日のことだった。

鉢植えを抱えたひよりを家まで送り届け、夕食をご馳走になってしばらく他愛のない話、主に合唱団についての話題で盛り上がって、ひよりがつまづいているという宿題を教えて。気がつけば時計は21時を指していた。

< 230 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop