不眠姫と腹黒王子




「まぁまぁ!
佐藤さんも円も落ち着いて!」


結が沈黙を明るい声で破った。

私は少し安心する。


「円と宮くんはただの友達だよ。ね?」

「うん。」

「あっそ。」


その子は全く納得していない様子でそっぽを向くと、布団に潜り込んでしまった。


結は私の肩をぽんっと叩いた。

「寝よ。」

「うん…。」


何て言えば佐藤さんを怒らせずに済んだのかな。

そもそも、宮が猫被ってるのが原因で…
私が短気なのも原因で…

もっと、昔みたいに心に余裕がほしい。

少しくらい嫌味を言われても笑って受け流して、
『好きになるな』なんて言葉にとらわれすぎ
ないで。

昔の私だったら、
宮とどう付き合っていけただろう。
こんなとき、どうしただろう…。


「…
佐藤さん。」

呼び掛けても返事はないが、まだ寝ていないようだった。

「ごめんね。」

そう言うと、佐藤さんの布団がもぞっと動いた。


「私、宮のこと友達として好きなんだ。」

「…そんなの見てれば分かるよ。」

「うん。でも彼女にはなれないよ。」

「当たり前でしょ。倍率高いんだから。」

「クスッ…」

「わ、笑わないでよね。」

「今度、宮と一緒に話そう。」

「うん…。」


佐藤さんはまたもぞっと動いた。


「高山さん…ありがと。ごめん。」


それっきり、佐藤さんは黙ってしまった。


周りから寝息が聞こえ始める。

ひとりぼっちの夜だけど、
なんだか嬉しかった。

私はもう昔の私には戻れないけれど、
今の私なりに頑張れた…よね。


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