白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
それからのわたしは、稜ちゃんの隣にいても気分が浮かなかった。

「どうした?」って聞かれても、「なんでもないから」なんて答えてしまって。

結果、すごく困らせてしまった。


“わたしが選びたかったのに、なんで店員さんに選ばせるの?”

そんな黒い感情が心にベッタリと貼りついて、なかなか取れてくれなかった。

本当は、わたしもお父さんのプレゼントを選びたかったんだ。

だけど、もうそんな気分じゃなくなっちゃって。

せっかくのお出かけなのに、1時間もしないで帰りたくなった。


「わたし、なんか疲れちゃった。もう帰ろう?」

「いいけど・・・・」


そんな会話を最後に、短い言葉もほとんど交わさなかった。

また人ごみの中を通るときも、稜ちゃんは手を差し伸べてくれた。


「大丈夫だから」


でもわたしは、そう言って虚勢を張って手をつながなかったんだ。


“好き”っていう気持ちはとても厄介なもの。

少しのことで嫉妬に変わる。

店員さんに嫉妬したなんて、こんなこと恥ずかしくて言えないよ。
 

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