白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
「お母さん、学校行ってくる」


わたしが体温計を渡しながらそう言うと、


「はい、お弁当。ムダにならなくてよかったわ」


と、お母さん。

わたしの手に、できたてホヤホヤの、まだ温かいお弁当を乗っけてくれた。


「風邪薬も入れといたから、お昼にちゃんと飲むのよ。ジュースじゃダメよ、ちゃんと水よ」

「分かってるよ。ありがとう、お母さん」


すごく忙しいはずなのに、短い時間で風邪薬まで用意してくれたお母さん。

“ちゃんと水よ”って、そんなに子どもじゃないんだけどなぁ。

なんて思うけど、そんな優しさがあったかくて心地いい。





そうして、お母さんの優しさを感じながら、わたしは少しダルい体を学校に向かわせた。


徒歩通学のわたし。

運動オンチのわたしは、17歳になってもいまだに自転車には乗れないんだ。

情けないけど。


朝のやわらかい日差しが、道路のあちこちに日だまりを作る。

だからわたしは、その中をゆっくり歩くんだ。

・・・・あれっ? でも、晴れてる。
 

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