谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜

「……そこまでの決意があるならば、大尉に会って自分自身でこのことを申し入れ、その理由を(つまび)らかに説明し、あとはひたすら誠心誠意、謝罪を尽くさねばならない」

オーケは、リリに向かってきっぱりと命じた。

「えっ……?」

リリは言葉を失った。

貴族(むこう)の慣例により、他家との間でなにかを決める際には、必ず使者を立てて互いの意見を擦り合わせることになっていた。
彼らにとっては、両家が面と向かって子細をあれこれ述べ合うというのは、無粋で非常識ないかにも「庶民的な」所業なのだ。

……親同士ですら、直接話し合うことはないのに、私が自身でグランホルム大尉に申し上げるの?


「そうだね……彼の気性からみても、間に立った使者から聞かされたところで納得しないだろうしね」

ラーシュも父親の意見に賛同した。

「とはいえ……私たちも仕事があるからね。急に言われても都合がつかないよ。
だからと言って、いくら断る側といえども、嫁入り前のリリを彼の住むカールスクルーナへ一人で行かせるわけにはいかないからなぁ。
彼は結婚式の間際にならないと、イェーテボリには来られないと言っていたけれど、仕方ないね。
……それでは、一刻も早くこちらに来るように、と彼に便りを出すよ」

婚約者同士であるはずの大尉とリリには、手紙でのやりとりはほとんどなく、二人が会見する手はずはいつも、兄の手に委ねられていた。


「……そんな……どうして……こんなことに……」

その後は、未だテーブルに突っ伏したままのヘッダのすすり泣く声だけが、ほんの先刻(さっき)まで家族の団欒の場であったはずのこの部屋に響いた。

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