氷の美女と冷血王子
「大丈夫か?」

駆け寄り抱きしめた麗子は、びしょ濡れの体のままガタガタと震えていた。

「かわいそうに」

俺は着ていた上着を脱いで、彼女を包み込んだ。

見ると、手も足も顔にも殴られたような跡がいくつもあり、所々血も出ている。

クソッ。
なんで、麗子がこんな目に遭うんだ。

「大丈夫か?」
心配そうに徹が声をかけるが、

「大丈夫じゃない。麗子が、麗子が・・・」
いつの間にか、止めることのできない涙が頬を伝っていた。

「孝太郎、しっかりしろ」

分かっている。一番傷ついているのは麗子で、俺が動揺している場合ではない。
理解はしているんだが、気持ちが追いつかない。


「さあ、来い」

俺と麗子の横で、三島と2人の男が手錠をかけられ連行されようとしている。

ぐったりとうなだれ、うつろな目をしてこちらを見ようともしない三島。
いつも控えめで、河野副社長の側近にしては毒のないいい人だと思っていた。
間違っても女性を傷つけるような奴だとは思ってもいなかった。

ウウー、クソッ。
俺の中で何かがキレた。

そっと麗子を寝かせると、俺は三島につかみかかった。

「何で、何でこんな酷いことをするんだッ」

ワイシャツの襟首を締め上げ、
パシッ。
拳を振り下ろす。

「ウ、ウウゥ」
三島がその場に膝をついた。

さらに殴ってやろうと、俺は三島に手を伸ばす。

バシッ、バンッ。

たとえ周りに警官がいようとも、遠慮などする気はない。
こいつの事をいくら殴っても気が収まらないんだ。

その時、何度となく拳を振り上げる俺に、意外な声がかかった。

「もうやめて」

え?

「孝太郎、離してあげて」
やっとのことで体を起こした麗子が、目をうるませて俺を見ている。

「麗子、お前」

自分がこんなに酷い目に遭わされたのに、なぜ止めるんだ。
お前は憎くないのか?

言いたいことはたくさんあるが、俺の口から出てきたのは

「黙っていろ」
冷たい言葉だった。

いくら麗子が止めたって、俺は許さない。

バシッ。
再び拳を落とす。

「もう、やめてー」

叫び声と共に、麗子が三島を抱きしめた。

う、嘘だろ。.何でお前が・・・
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