氷の美女と冷血王子
トントン。
「会議中悪いけれど」
ノックと共に会議室の戸を開けた。

「「え、専務」」
いくつかの声が重なった。

会議室にいたのは、徹と、彼女と、副社長の秘書と、その他取締役の専属秘書が4人ほど。
彼女以外はみんな男性だ。

「専務、どうかされましたか?」
慌てて立ち上がろうとする彼女。
けれど、両脇を挟んでいた男性達の椅子とぶつかってなかなか動けない。

よく見れば、そんなに狭くもないはずの会議室で、彼女の回りだけがやたら距離が近い。
机の上に置かれた資料なんて、端が重なっている。

「まだかかる?」

「いえ。青井さん、ここはいいから行って」
徹が答えた。

「では、失礼します」


机の上の資料を片付け廊下へと出てきた彼女。

「悪いね会議中に」
「いえ、議事はほとんど終わっていましたので」
「ふーん」
じゃあ早く戻ってくれれば良かったのにと思ったものの、口には出さなかった。

「午後からの打ち合わせに使うデータがなくてね」
「えっ、朝お渡しして机にしまわれましたよね」

そうだっけ?

「引き出し見ました?」
「いや」
聞いた方が早いと思ったから。

「専務・・・」
後ろをついてきていた足が止り、ジッと俺を見ている。

「ごめん、忘れてた。でも、君達も悪いんだぞ。取締役の専属秘書達がそろって席を空けたんでは業務に支障が出るじゃないか」
悔し紛れに言ってしまった。

「これも仕事です」
彼女は唇を尖らせて不満そうな顔をした。
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