愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 それから、とにかく理由をつけては会いに行き、やっとの思いで食事にこぎつけた。

 そして、百合と別れてから4年。新しい彼女ができた。一緒にいるうち、詩音はあっという間に俺の特別となり、すぐに将来を考えるようになった。


 そんな時、また突然彼女が現れた。順調に詩音と付き合い、1年が経ったある日のこと。

 百合は結婚した旦那とうまく行かなくなると、その度に訪ねてくるようになった。

 俺は、真剣に付き合っている彼女がいることも伝えたし、会いにこられるのも困ると言った。だけど、百合は一歩も引こうとせず。


 『見捨てるならここで死んでやる』

 『子供と一緒に心中してやる』


 終いにはそう言って、ヒステリックを起こした。そんなこと口だけだ、できるはずないと思えれば良かったのに.....。

 酷かった時の百合を知っている手前、やりかねないと思ってしまった。

 そして、自分の意思の弱さが原因で、百合との関係はズルズルと続き、詩音に黙って頻繁に会うようになってしまった。

 結果、俺は1番大切な人を傷つけた。


 百合といるところへ、今にも泣きそうになるのを堪えながら向かってきた詩音の顔は、今でも目に焼き付いて離れない。

 詩音が家を出てからは、心にぽっかりと穴が空いたようで、どれほど彼女が大切な存在だったかやっと気づいた。

 どれだけ馬鹿な真似をしてしまったのかと。それでも時すでに遅く、裏切りの代償は大きかった。








< 191 / 219 >

この作品をシェア

pagetop