愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 返事をする隙も与えず、スタスタと歩いて行ってしまう彼に、この時は「勝手な人だな」と不審に思っていた。

 でも、近くまでファイルを運んでくれた後、来た道を戻って行ったのを見て、印象がガラリと変わった。わざわざ、用もないのに来てくれたんだと分かったから。


 それから、私たちが付き合うまでに時間はかからなかった。会社に来るたびに声をかけてきた彼が、ある日、いつもと違う会話を始めた。


「明日、休みだよね?」

「え?はい。」

「今日、予定は?」

「ない...ですけど。」

 すると、彼はLINEのIDが書かれた付箋を差し出して言った。

「じゃあ、夕食でもどう?」

 正直、下心は見え見えだった。でも私の中での答えは、もう決まっていて....

「いいですよ?」

 少し余裕ぶってそう答えた。内心、ドキドキしながら、ガッツポーズをとる。


 その日、彼は会社の近くにご自慢の外車で迎えにきた。そして、夜景の見える少し高そうなレストランに連れて行かれ、完全に口説かれているなと実感した。

 でも、そのハッキリした態度が、逆に心にささったのかもしれない。

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