死んでもあなたに愛されたい
「何の用、兵吾郎」
「訊かずともおわかりでしょう」
「…………」
「白雪組に、連れ戻しにまいりました」
「却下」
「お嬢!」
――白雪組。
このなんともかわいらしい名称が、ウチ。
暴力団。極道。ヤクザ。
いろんな呼び方があれど、結局は、やばい組織。
それなりに権力があり、家を構えている地区一帯を軽く占め、裏のボスとして君臨している。へたしたら、区長よりも権限が強いかもしれない。
現在は関東全体に勢力を拡げているとか、どうとか。
そこの娘が、あたし。
ある意味、お嬢様。ある意味ね。
あんな窮屈なお嬢様生活なんて願い下げだけど。
「兵吾郎、あたしは家出したの。わかる?」
「だから今、大変なことになってるんですよ……」
「見て、この制服姿。ウチじゃ着れなかったやつだよ。わかる?」
「家でも着ればいいじゃないですか」
「気分がちがうでしょ、気分が!」
「お嬢~……」
みっともない声をしぼり出す彼、兵吾郎は、あたしのお目付け役だった。
20代前半であたしと年齢が近いことから、監視、教育を任せられ、必然的に彼と過ごす時間が多かった。
あたしが高校生活に憧れていること、自由を求めていること、彼にはぼやいたことがあるから知っているはず。
なのに連れ戻しに来るとは、鬼か。