だから、言えない


「え、これ…」
「お前、先週、
誕生日だったんだろ?」
「あ!私と飯田さんの会話
聞いてたんですね」
「あぁ…」

おぉ、なんてこった。
あの佐山さんが、
私に物をくれるなんて!
明日は雨が降るかもしれない。

「あ、ずるーい!
佐山さん、
あたしのはないんですか?」
「うっせー、塚尾(つかお)
お前は誕生日じゃねぇだろ」
「あたしが誕生日の時、
くれなかったじゃないですか!」

塚尾さんがぎゃんぎゃん喚くのは
いつものことだから、
事務所にいるみんなは慣れていて、
誰も反応しない。

「お前、本当めんどくせぇな」
「なによ!ケチ!」
「半分食べる?」
「竹本さん!
シュークリームなんて、
半分に割れないじゃないですか。
中身どろどろしてるのに。
ばかですか?」

あ、ほんとだね。

「バカは言い過ぎだよ。
じゃあ、塚尾さんの
シュークリームは
今度俺が買ってきてあげるから、
今日はもういいよね」

村薗(むらぞの)先輩がそう言った。


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