だから、言えない


*

二月に入ってすぐ、
片林さんが私に、
旅行雑誌を数冊手渡した。

「社員旅行ですね」
「そうだ」

今年は三年に一度の社員旅行がある。

この会社は小さいから
旅行代理店には依頼せず、
自分達で旅行の手配をするんだけど、
なぜか私が、
旅行担当みたいになってる。

「社長が温泉がいいと
おっしゃった」

渡された雑誌を見ると、
温泉地のものばかりだ。

「温泉だったらー、
美肌の湯にしてくださいねぇ」

塚尾さんが、
いすごと私の席に近づいて、
私が見ていない雑誌を手に取ると、
パラパラと開き始めた。

「あ、あとー、
脱衣場にウォーターサーバーが
あるとこじゃないと無理です。
途中で水飲むんでぇ」
「塚尾!お前は黙っとけ」

片林さんが言うと、
塚尾さんは口を尖らせた。

「佐山さんと飯田さんは、
何か希望はありますか?」

と、言いながら、
私は村薗先輩にちらっと目をやった。


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