不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


「まだ顔を合わせて間もないが、徐々に俺にも、新しい生活にも慣れればいい。今日は、一緒の時間を過ごしてお前のことが少しわかった」

「え……本当ですか?」


 思いもしないことを言われ、思わず体が前に出てしまう。


 今日、引っ越しをして、一緒に出掛けて、少しでも一緒の時間を過ごしたから……?

 私は終始緊張の時間だったけど、そんな恥ずかしい姿も観察されちゃってたってこと、だよね……。


「ああ。どんなところに出かけて、どんな店が好きで、どんなものが好きなのかが少しだけわかった。まぁ、まだまだ知らないことのほうが多いがな」

「なんか、恥ずかしいですね……」

「恥ずかしい? なぜ」


 ストレートに訊き返されて、なんと説明したらいいのか返答に困る。

 笑って誤魔化すように「いえ、なんでもないです」と言っていた。


「でも、それでは不公平ですよね。私は桜坂社長のこと、まだ何も知りません」


 話の流れでそう言ってしまい、ハッとして口を噤む。

 私のことはいいとしても、私が桜坂社長のことを知ろうなんておこがましい。


「あっ、すみません……つい――」

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