不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


「……可哀想に」


 ポツリと、聞き逃してしまいそうなほど小さな呟きだった。


 え……?


 可哀想――そのフレーズに、一体どういう意味だろうと思わず目を開きそうになる。

 瞼がひくひく動きそうになって、とにかく気持ちを落ち着けるのに集中する。

 そのうちに髪から触れる感触が離れていき、ベッドから気配が遠のいていくのを感じ取った。

 ドアが閉まった音を確認してから、警戒しつつもそっと目を開く。

 広い寝室には私ひとりだけで、肘を立ててゆっくりと上体を起こした。


『……可哀想に』


 その言葉の意味は分からないけれど、聞いてはいけないものを聞いてしまったような、そんな気分に追い立てられる。


 可哀想って、どういう意味だろう……?

 あの言い方は、私が可哀想……ってこと、だよね……?


 もやもやと心に暗雲のようなものが広がっていく。

 ほろ酔いと心地よかった眠りから一気に覚め、しばらくベッドの上から動けずにいた。


< 65 / 135 >

この作品をシェア

pagetop