春の闇に連れ去らレ

死んだ人間に何を思っても遅いけれど。

手を切れないのなら、逃げたって良かった。
あたしも一緒に、逃げたのに……。

喉の奥がまた熱くなって、必死に堪える。吐きたいのか、泣きたいのか。
どっちにしろ口にはガムテープが貼られているので、吐いても大丈夫か。

事務所のような場所に連れて行かれ、あたしはソファーの前で床に転がされた。
一緒になっている手首を使って上半身を上げると、家に入って来てない男が一人見えた。

誰だろう、と思ったところで自己紹介してくれるわけもない。

どうせ、借金のカタにどこかの風俗に身を沈めるか、バラバラにされて売られるか。

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