春の闇に連れ去らレ

車にエンジンがかかる。
あたしは衣服を戻して窓側に寄った。緤が真ん中から端に寄ろうとしなかったからだ。

「……悪かったよ」

小さく言うのが聞こえた。

服を無理やり脱がせようとしたことか。
それとも。

「緤さん、誕生日、おめでとうございます」
「ん」
「楽しく、過ごせました?」

弾かれたようにこちらを向いた。

「……ああ、馬鹿みたいに」

それなら良い。歳を重ねることは時に酷く重みだけれど、大人になることは楽しいことであってほしい。

あたしは絶望と隣に居ながら、どこにいるのか分からない希望を願う。

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