僕の作品（いのち）をキミへ

きっかけ

　僕からのメッセージが届いたのならキミはどんな表情をしてどんな事を思うだろうか。そんな事を考えては思い出を綴った日記に目を向ける。今でも忘れられないなんて馬鹿みたいだ。


　2020年　○月✕日。

　「音楽じゃなくて小説を書いてみたらどうかな。」

　僕は唖然とした。
今までに小説を書いた経験は全くない上に10年間磨き続けてきた音楽という宝石を否定された気がしたのだ。たかがネットの知り合いの戯れ言にせよ、僕の心に真っ直ぐに刺さるものがあった。誰にだって限界を感じることはある。

「書き上げたら見せてくれないかな。」

小説なんて書くはずがないだろう。と心で思いながらも気づけば書き物に没頭していた。僕の拙い日記を小説にしていく。その作業で心にぽっかりと空いた穴が埋まるのだ。書き手のこだわりは読者には届かない。それならば、読者ではないキミになら届くような気がしたのだ。

　キミは僕の幼い頃からの友人で僕の人生を180度変えた人間でもある。天真爛漫で時に天然ボケな一面を見せるキミには人間に興味を持てなかった僕の中に「もっと知りたい」という感情を生み出した。僕らだけにしか分からない時間と感覚。日記の中の文章から必死に過去の記憶を遡る。

「僕を見つけてくれてありがとう。」

ふと、頭の中にその言葉が過ぎった。ああ、そうだ。数多の人の中から人嫌いな僕を見つけて声をかけてくれたのがキミだったな。涙とともに暖かい感情が零れ出した。

　この作品を君のもとに届けようか。