戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜



普段の村雨くんと目の前にいる村雨くんのギャップに驚いたものの、それ以上の詮索をしてこない私の意図を察したのか、村雨くんは満足げに口角をあげた。


「やっぱりな。俺の目に狂いはない」


そう言った村雨くんの瞳の奥がギラっと光った気がして、思わず私は後ずさる。

本能が、逃げた方がいいと訴えかけていた。


「おっと、逃すかよ」

「ちょっ、村雨くん?!」


村雨くんに腕を掴まれたと気付いた瞬間には、グンッと力強く手前に引っ張られ、そのまま私は彼の腕の中に飛び込む形になった。

一瞬のことで訳がわからなかったが、すぐに状況を飲み込み、身体が硬直する。

何で、村雨くんに抱きしめられているの?!

久しぶりに他人の体温を感じた私は、耳まで真っ赤に染め上げ、血が沸騰するかというほど湧き上がっていた。


「その反応、やば。…たまんねー」

「ちょ、村雨くん!揶揄うなら、違う(ひと)とやって!」


草食系なはずの村雨くんの腕の中は、想像以上に力強くて男らしい。

男性経験には乏しい私には、異性に抱きしめられているというだけでも、どうすればいいのかわからない。


「バーカ。…可愛いっつってんの」

「なっ」


予想外の甘い返し言葉に、毎度のことながら固まる私。


「わ、私は、村雨くんの思っているような人間じゃない!」

「は?んな訳ねーだろ」


なんとかこの異常事態から脱したくて異を唱えるもすぐに却下された。


「ただの飲み会好きだったらな、その場の空気が良ければ良いの。楽しい空気をぶち壊す俺みたいな存在を誘うこともしない。もし誘っても、空気を汚した俺が帰ったところで気にもしないし、こうやって追いかけたりしない」


確かに、村雨くんの言う通りだ。

これまでの村雨くんへの一連の行動は、全て私の地味子性質がもたらした行動。

飲み会の誘いすらされない村雨くんを、勝手に昔の自分と重ねて哀れんで。

いざ彼を連れてくることに成功しても、彼のフォローもできずに、彼の様子が気になってこうして追いかけてきた。

”皆の北川さん”の私だったら絶対にしない、真面目さと謙虚さだけが取り柄の本当の私が起こした行動だったのだ。


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