消えた卒業式とヒーローの叫び

「う、上原くんが、制作において大切にしてることってリアリティなの?」

 話題を逸らしたかったけれど、これだけは聞きたかった。何を重要視するのが一番良いのか、まだ作り始めて二年未満の私にはわからない。


「そうだな、リアリティはある程度大切にしてる。その時々の流行りとか言葉遣いとかルールとか。色んな経験をすることが一番大事かな。中学生を主人公にしてるなら、中学を取材してみれば?」


「取材?」

 さも当たり前かのように、“取材”なんて言葉を口にする。確かに、リアリティを出すためには一番だろうが、私にそんな勇気はない。日彩を見て、何となくで描いているだけだ。


 だがもし、それによって良いものが作れるのなら。上原くんや、今日の映画の作者に近づけるだろうか。

 そんなことを想像すると、欲望と自分のコミュニケーションスキルとの差に苦しくなった。

「そう。妹、中学生だよな? 今何する時期だっけ、受験勉強のことしか覚えてねぇんだけど」

 私も同じく、勉強の記憶しかない。友達もいない私にとっては、受験生など関係なく毎日がそれだった。

 日彩なら何をしているだろうか。きっと青春を謳歌しているに違いない。

 勉強以外で何かをしていると話していた記憶の糸を辿る。網で魚を引き上げるように、細い糸を手繰り寄せた。

「あ、卒業式の歌の練習してるって言ってたかも、指揮者の担当になったって……」

 見事に魚が釣れた。それに上原くんが食らいつく。

「歌か、そういえばそんな事してたな。永遠、今度一緒に取材行かね?」

「え?」

 息をするほど自然に誘われた。周りの声が一段と大きくなった気がする。

 エアコンの温度がしっかりと調整されている、暑くも寒くもないこの空間に居座りたいという気持ちは山山だが、今だけは何も言わずに立ち去りたい思いでいっぱいだった。

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