暁の夕暮れ ~春の章~

 ────眠り姫みたいに、キスで起きないかな。

 さっ、と頭を横切ったそんな考え。

「いやいや、それはない。……いやでも…やってみる価値ならある…かな」

 いつの間にか俺の膝にあったことねの頭と、膝の間に手を滑り込ませる。

 そのまま彼女の頭を持ち上げて…

「……ん…ッ」

 そっと、触れるだけのキスをする。

「……これで起きたら、すごいけどな…」

 まぁ、そんなことは───と思った矢先。

「………ん…?」

 かすかに身じろぎすることね。

「え、嘘…」




【ことねside】



「おはよう、ございます」

「え、あ、うん。おはよう」

「つきました?」

「いや、えっと…通りすぎた」

 私はそれを聞いて、ぽかん。

 はて、どういうことやら。

「うん、ことねが寝た後、俺も寝ちゃったみたいでさ…」

 ごめんね、と肩をすくめる菜央さん。

「いえ、そんなこと…」

「しかも、起こすために…」

 その時、アナウンスが流れる。

「ここで降りて戻ろう」

「あっ、はい…」



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