美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変
君とハッピーバレンタイン
※※※





「見て見てっ! このデコレーション、どうかな!?」


 我ながら上手く出来た仕上がりに、自信たっぷりと彩奈に向けて手元のチョコを見せる。


「うんっ、可愛いね」


 そう言ってニッコリと微笑む彩奈の手元を見てみるとーー。
 相変わらずの上手さで、私の作ったチョコなんかよりもよっぽど美味しそうに見える。


(あー……。今すぐ食べてしまいたい。どうせ毎年くれるんだから、一つくらい今貰ってもいいよね?)


 そんな事を考えていると、私の視線に気付いた彩奈が口を開いた。


「これは、ダメ」

「えっ……」


(ま、まさか……っ。今年からはもう、私にバレンタインのチョコ、くれないの……?)


 そんな事を考えながら、泣きそうな顔をして彩奈を見つめる。
 すると、突然プッと吹き出した彩奈が笑顔でチョコを差し出した。


「はい。これならいいよ」

「わ〜いっ! ありがとう、彩奈!」


 途端に笑顔になった私は、彩奈からチョコを受け取るとそのまま口の中へと入れる。


(ん〜っ! 美味しぃ〜っ! やっぱり、彩奈のチョコは毎年美味しいなぁ)


 口いっぱいに広がるチョコを堪能しながら、思わず顔がニヤけてしまう。

 毎年バレンタインの時期になると、彩奈と一緒にチョコ作りをしている私。
 こうして作りながらのつまみ食いも、私にとっては毎年の恒例なのだ。


(それにしても……。あれだけ、何だかやたらと凝っている気がするのは、私の気のせい? ラッピングだって、他とは違って随分と豪華だよね……)


 彩奈がラッピングをしているチョコを眺めながら、そんな事を思う。


「ねぇ、彩奈。……そのチョコ、誰にあげるの?」


 気になった事を、そのままストレートに質問してみる。

 毎年彩奈があげるのは、お兄ちゃんとひぃくんとお父さんと……それと私。それだけだったはず。
 数はあっているけど、何だか一つだけ特別感が凄い。それはまるで、私がひぃくんのだけ特別に豪華にしたのと同じようにーー。

 未だ無言のままの彩奈をチラリと見ると、何だか顔が……赤い?


(……え? ……えっ!? もしかして……っ!)


「彩奈っ! それって、もしかして……っ! 好きな人にあげるの!?」

「……っ。……うん」


 顔を真っ赤に染めて、小な声でそう答えた彩奈。


(えっ!? 嘘っ! 彩奈……、好きな人がいたの!!? じゃあーー)


 チラリとラッピングされたチョコ達を見渡してみる。


(やっぱり……っ、数が合わないわ。うっ……。今年からは、私のチョコはないのねっ!? ……食べたいっ! 食べたいけど……っ。私、我慢するっ! 彩奈の好きな人の為に、我慢するんだからぁっっ……!)


 一人、心の中で大芝居を打った私は、気を取り直すと涙を堪えて彩奈を見た。


「……誰!? 彩奈の好きな人って!?」

「……っ……。……翔、さん」

「…………へっ?」


 ポツリと小さな声で答えた彩奈の言葉に、間抜けな声を出してしまった私。


(えっとー……。えっ……?)


「あのー……。……それって、どちらの翔さん?」


 そう問いかけた私は、痙攣った顔でヘラッと笑って見せる。
 そんな私を見た彩奈は少しむくれて、けれど真っ赤な顔のまま口を開いた。


「……っ。あんたのとこの、翔さんよっ! もう……っ、花音のバカっ!」



 ーーー!!?



(ンなっ!? ……何ですとっ!? お兄ちゃん!? 私のお兄ちゃんなの!!?)


 意外すぎる人物に、驚きすぎて声すら出ない。
 見開いた瞳で彩奈を凝視すると、呆然とその場に立ち尽くす。


(えっ!? だ、だって……だって、あのお兄ちゃん!? な、何でっ!? 何でお兄ちゃん!!? 彩奈だって怖がって……。あっ……、あれ? 怖がって……、た……? 本当、に?)


 今まで見てきた、数々の不可解な彩奈の態度を振り返ってみる。今にして思えば、あれは怖がっていたのではなく照れていたのだ。


「……っ、彩奈。ごめんね……、気付いてあげられなくて」

「いいよ。……だって、花音だもん」


 未だほんのりと赤く頬を染めたままの彩奈は、プッと小さく声を漏らすと照れ臭そうに微笑む。


「いつから……? いつから、お兄ちゃんの事が好きなの?」

「んー、気付いた時には……。たぶん、中一の頃かな……。でも、翔さんいつも彼女がいたから……」

「そうなんだ……」


(私は知らなかったけど……。彩奈は知ってたんだね、お兄ちゃんに彼女がいた事。それでも好きって……きっと、辛かっただろうな……)


 そんな彩奈の気持ちを思うと、何だか目頭が熱くなってくる。


「もうっ……、やめてよ花音。私は大丈夫だからっ。それにね、今はフリーだって翔さん言ってたから。だから……告白ね、してみようと思うの」


 そう言って明るく振る舞う彩奈。
 私はそんな彩奈の両手を握ると、今にも泣き出しそうな顔のまま笑顔を向けた。


「っ……そっか。そうなんだねっ! 私、彩奈の事応援するからねっ!」

「うんっ……。ありがとう、花音」


 少しだけ照れたような表情を見せる彩奈は、そう言うと可愛らしく微笑む。


(そっか……。彩奈の好きな人は、お兄ちゃんなんだね。……うん。それなら、私にも協力ができそう)


 目の前で可愛らしく微笑んでいる彩奈を見つめながら、親友の為にもここはなんとしても協力をしようと、そう固く心に決めたのだったーー。



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