羽を失くした天使 ~祐一の場合

千佳が 俺の前から 消えて

やっと俺は 動き出せた。


春休みから 俺は 引越し業者で バイトを始めた。

夢中で 体を動かすことは 疲れるけれど

現実を 忘れることができた。


3年になっても 俺は そのまま バイトを続けた。


そのうち 就職活動が始まって。

卒業が 見えてきて。


傷は 癒えてなくても 

俺は 普通の 生活ができるように なっていた。


ずっと 明るい道を 歩いてきた俺にとって

あの半年の 暗闇の時間は 本当に 辛かった。


大切なものを 自分の手で 壊した苦しみ。


たった一瞬で すべてが 変わってしまう恐怖。


取り返しの つかないことって

本当にあるんだと 俺は知った。


麻里絵のことは 今でも 忘れられない。

千佳を 憎む気持ちは 今でも 変わらない。

でも 結局 自分の弱さが 招いたこと。


俺は どんなに 傷付いても 自業自得だけど。

麻里絵を 傷付けてしまったことは 消えない。

償うことも できないまま…





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