羽を失くした天使 ~祐一の場合

そのまま かつ丼を持って 娘さんは 戻り。

「社長。いいお嬢さんじゃないですか。」

俺は かつ丼の残りを 食べ続ける。


「あの子が 小学生の時 離婚したの。かれこれ10年よ。女手一つで 育てたから。やっぱり どこか 違うのよねぇ。私の 若い頃とは。」

「社長のせいじゃなくて。時代のせいじゃないですか。俺の母も よく言ってますよ。俺や 兄のことを 何か違うって。」


「時代のせいねぇ。確かに それもあるかな。何か クールなのよね。今の子って みんな そうなの?」

社長は 今度は 母親の顔になっていた。


「社長は 再婚とか 考えないんですか?」

人の 心配どころでは ないけど。

一人娘が 巣立ったら 寂しいだろうと 俺は 思った。


「考えているわよ。別れた夫と。父が 猛反対だから。時期を見てね。」

数年前に倒れた 社長のお父さんは 長いこと 入院している。

「へぇ。そうなんですか。」

俺は 社長の 意外な一面に 驚く。


まぁ 俺も 今日は 意外な一面を 見せたから。


「ママ。ちょっと 出かけるから。」

瑞希ちゃんは 空の丼を持って 事務所を覗く。

「遅くならないうちに 帰るのよ。」

母の顔で言う 社長。


「あっ。よかったら 駅まで 送りますよ。すっかり 長居してしまい。お昼まで ご馳走になったお礼に。」

俺の提案に 瑞希ちゃんは 笑顔で頷いた。







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