羽を失くした天使 ~祐一の場合

「こんにちは。お疲れ様です。」

事務所に入ると あの日のように 

社長は 奥の席に 座っていた。


「あら。進藤君。今日は どうしたの?」

あの日のように 俺に ソファを勧める社長。

「今日は 仕事じゃなくて。個人的なことで 伺いました。」

俺は 社長の前に 菓子折りを差し出す。


社長が コーヒーを注いで 俺の前に 座ると

「社長。お願いがあります。瑞希ちゃんと お付き合いさせて下さい。」

俺は 何の前置きもなく いきなり言った。

社長の目を じっと見て 表情を窺がうけど。

社長も 表情を変えずに 俺を じっと見る。


耐えきれずに 先に 目を逸らした俺に

社長は クスッと笑って

「もう 付き合っているくせに。」

と言った。


やっぱり この社長は 透視ができるのか。

慎重に 付き合ってきた つもりだったけど。

社長には 全部 お見通しだった。


驚いた顔で 何も言えない俺。

「私 瑞希の母親なのよ。顔見れば わかるわよ。」

「えっ。でも どうして俺だって…?」

「進藤君の話しすると 瑞希 嬉しそうな顔するの。隠しているつもりでも 見え見えだったわよ。」


瑞希は 演技上手だから 任せてって言ったのに。

俺は 苦笑するしかなかった。



社長は 俺達の交際を 許すとは 言ってない。

俺は 緊張したまま 社長の言葉を 待つ。






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