最後の日まで、君のそばで笑っていたい
他の生徒会メンバーも早めに登校していたので、用意も順調に進み、予定時間より早く終わった。まだ、入学式まで時間があるということなので、とりあえず解散という指示が出た。教室に行ってもやることの無い隆人は、1人で広場に向かう。広場と言っても小さなもので、中央に大きな桜木が立っていて、そのまわりを囲うように花壇が並べられている。いくつかのベンチとテーブルが設置され、昼食をここで取る生徒も少なくないが、朝は誰もいない。木陰となるベンチに腰を下ろすと、静かに息を吐いた。彼は最近悩んでいる。学力も上位、容姿も人並み以上で優しいという三拍子揃った男で、モテない訳でもない。のにも関わらず、彼に彼女がいたことはない。この高校の七不思議の1つ…とまでは言わないが、その理由を知る人は本人を含め誰もいないのだ。勿論、本人が1番気にしているのは言うまでもない。彼に好意を抱く人は男女問わずとても多い。しかし、女子の中では「観賞用」というポディションに固定されてしまい、抜けがけ禁止令が公布されるなど、とにかく彼女ができない。それが幸なのか不幸なのか…少なくとも隆人の描いていた青春には程遠いということに変わりはない。ため息混じりに視線を上げたその時、中央の桜木の横に立ち、愛おしそうに木の幹に触れる人を見た。どことなく桜に似た儚い雰囲気を持つその人に、隆人は一瞬で心を奪われた。

それが彼女―神崎葵との出会いだった
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