電話のあなたは存じておりません!
1.間違い電話



『佐藤さんですか?』

 十一桁の知らない番号を見てから出た結果、開口一番に尋ねられた。

 若い男の人の声だ。張りのある声を聞き、ドキッとしてしまう私はかなり重症かもしれない。

 なんだ間違い電話か、とどこかガッカリした気持ちをひた隠しに、私はよそ行きの声で答えた。

「いえ、違いますよ?」

『……あ。そうですか。すみません、失礼しました』

 男性は行儀良く答え、すぐさま回線は切られた。

 耳に心地良いトーンで響く声だったな、と思い、また枕元にスマホを置いた。

 佐藤さんは日本で一番多い苗字だが、生憎のところ私は佐藤さんでは無い。芹澤さんだ。

 芹澤(せりざわ) 朱音(あかね)、二十四歳。

 実を言うと、昨日で二十四歳を迎えた。

 何気なく黒の壁掛け時計を見やり、八時半かと呟く。

 ベッドに横たえた体を一度起こし、棚に置いたステレオに備え付けのリモコンを向けた。BGMの音量が上がり、心地良いメロディに体が包み込まれる。

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