電話のあなたは存じておりません!
 副社長はスラっと背が高く、いかにも高そうなスーツを品よく着こなしたイケメンさんだ。由佳の情報によるとアラサーの二十八歳らしいが、その年齢よりかは少し若く見える。

 サラサラの黒髪を上品に纏め、清潔感が窺える。目鼻立ちも問題なく整っている。

 ジッと彼を見過ぎたせいか、不意にバチっと目が合い、私は恥ずかしさに口を引き結んだ。

 ーーしまった。何がなんでもガン見はヤバい。

 愛想笑いを張り付け、小さく会釈すると、フッと微笑を向けられた。

 訳もなくドキッとする。いつもなら冷静に微笑み返すのに、イケメンオーラというやつに完全にのまれていた。

 電話を終えた由佳が女性秘書さんに「十二階の会議室になりますので、ご案内致します」と伝え、カウンターを抜け出した。

 私へと振り返り、こっそりピースサインを向けて来る。私はやんわりと笑い、由佳に小さく右手を振った。

「はぁ〜……いつ見ても素敵だわぁ、或叶(あると)様」

「え……」

 入り口とは別のエレベーターホールへ歩いて行く後ろ姿を見つめ、沙奈江が悦に入りながら呟いた。

「沙奈江、いま何て?」

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