電話のあなたは存じておりません!
 というよりむしろ、誕生日すら覚えて貰えない哀れな私は、彼女では無かったという事だ。

 冷静にそう分析するものの、余りの衝撃で正直パスタの味は分からなかった。

 元カレの和希は私が勤める真島物産(ましまぶっさん)へ二日、若しくは三日に一度、顔を見せるエリートだ。真島物産の得意先、来栖商事(くるすしょうじ)の営業マン。

 かくいう私は会社の顔となる受付嬢の仕事を担っている。

 仕事は日常的なものだから、彼が結婚してからもこれまでのように顔を合わせなければいけない。

 なんて仕打ちだと舌打ちをつきたくなるが、とにかく気まずい。

 一瞬、会社辞めようかなと馬鹿げた考えも浮かんだが、特別今の仕事に不満がある訳でもないし、何より部屋の家賃が払えなくなるという現実問題に直面する。

 私の人生、本当にロクな事が無いと後ろ向きになり、このまま何処か行ってしまおうか、消えたいなぁと陰鬱な妄想まで浮かんだ。

 それでも不思議と頭の中は冷静だった。

 土曜日の今日からはゴールデンウィークで、会社もお休みだから失恋を癒すには丁度良い。
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