一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
ひどい状態といえど、痛みは鈍っていないらしい。わざわざ確認する気にはなれないが、手の平はきっと赤くなっているだろう。せめてもう少しそっと下ろしてもらえたら助かったのに。
ゴロンと体が回転。実花子はうつ伏せから仰向けへさせられた。
「うわっ! 酒くせー」
わざわざ目を開いて確認しようとは思わないが、声の主はきっと鼻を摘まみ、もう片方の手で実花子から立ち上る匂いを払っているに違いない。さぞかし険しい表情を浮かべているのだろうと簡単に想像できた。
「なんだよこの匂いは! またいつものところ?」
そのとおりですと心の中で答える。
行きつけの焼鳥屋『一休』。この匂いは、まさしくそこで付けてきたものだ。
煙とアルコール、プラスおじさま臭。トリプルで仕上がった香りである。
女性があまり近寄りたがらないような煤けた店でひとり焼き鳥を食べながら一杯やるのが、実花子はなによりも好きだった。
カウンターに腰を掛け、たまたま隣り合った紳士と仲良くなることもしばしば。どういうわけか実花子は、五十代や六十代の男性と波長が合う。かといって、おじさま趣向ではないのだけれど。