好色歯科医が初めて真剣な恋をしました

「初めて お会いして こんな話し 嫌じゃない?」

駿平の母は 真美に聞く。

「はい。私こそ。お邪魔じゃありませんか?」

真美の返事に 両親は 笑顔で頷く。


「私 自分の親に 何も言えなくて。お父さんには 結構 辛い思いを させてしまったの。お父さんも 若かったから。どうすることも できなかったのね。腹いせみたいに 夜遊びして。」

「遊べば 遊ぶほど 虚しくなってな。おじいさんが亡くなった時 憑き物が落ちたよ。俺にも 娘がいれば 少しは おじいさんの気持ちが わかったんだろうけど。おじいさんにも 随分 心配かけたよ。」

父と母が 言う言葉を 駿平は 黙って聞いていた。


「俺なりに 結婚したら こうしたいとか。家族には こうしたいとか。小さな 理想があったんだけど。お母さんのことも お前達のことも おじいさんには 逆らえなくてね。お父さんが 弱かったせいで 辛い思いをさせて 悪かったと思っているよ。」

「お父さんが 外で遊んでいたのは 家族への愛情の 裏返しだって。何となく 気付いては いたけど。私も 若かったから。自分を 抑えられなくて。あなた達の前でも よく喧嘩したわね。」

「愛情の 裏返し?」

駿平の言葉に 父と母は 顔を見合わせて 頷いた。


「いい加減に してくれよ。俺は 今まで 何のために 苦しんできたんだよ。」

「悪かったな 駿平。随分 寂しい思いも させたよな。」


父の言葉に 真美は 涙汲んでしまう。

自分の両親のことが オーバーラップして。


親の愛情が 信じられなくて。

歪んでいく心を 持て余していたことを。


「駿平。これからは 納得するまで 2人で 話し会って。悔いのない生活を してほしい。2人が 決めたことに 俺達は 口出ししないから。でも 助けてほしいときは 遠慮なく言ってくれ。できることは なんでもするから。」

父の言葉に 真美は 涙を溢れさせてしまう。

自分の父も 似たようなことを 言っていたから。


俯いて 涙を拭う真美に 父は言う。

「真美ちゃん。色々 あったけど。俺は 一途な人間だから。駿平も 俺の血を引いているから。大丈夫。真美ちゃんを 一途に 愛していくからね。」

お礼を 言うこともできずに 

真美は 俯いて 涙を流しながら


隣で 鼻を啜る 駿平の涙に 気付いていた。





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