俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です
第三章 ソーシャルストーカー

第一話 状況確認

 先輩たちの卒業式が終わって、すでに2ヶ月が過ぎた。高校を卒業して、大学に通い始めているはずだ。
 それなのに、なぜ、元会長と元副会長が、俺の家のリビングで、ユウキと一緒にくつろいでいるのだ?

「キミ。それで、僕たちの朝ごはんはまだなのかな?」
「はぁいぃ?」
「あっタクミ。僕は、パンケーキでいいよ。生クリームもいいけど、今日はちょっと大人にチーズで食べたいかな?」
「おっユウキ!それいいね。キミ。僕も同じでいいよ。あっ美優もいいよな」

 なんなんだ。
 この人達?

 ユウキも昨日は、自分の家に戻ったはずなのに、なぜ普通に座っている。
 それも、いつの間にか、先輩たちを連れ込んでいる。そして、なぜ俺が朝ごはんを作る事になっている?

 あまりにも馬鹿らしくて笑ってしまった。

 しょうがないので、パンケーキを焼くことにした。
 人数分を同時に焼くのは不可能なので、順番に焼くことにする。最初のいち枚は、ユウキに渡して、次のいち枚は先輩たちに半分づつ渡す。次の一枚も先輩たちが分けるようにして、次の一枚がユウキの分になる。
 俺の分を入れて、都合5枚のパンケーキを焼くことになってしまった。
 フルーツは、缶詰から出して、食べやすいサイズにカットしたものを用意して、チーズはアルコールを飛ばした白ワインでゆるくした物を用意した。自家製のジャムも付けたので、文句を言われるとは思わなかったが、文句も言わないで食べてくれるようだ。

「ね!言ったとおりでしょ?!」
「あぁユウキは嘘を言っていないな」
「本当に、これは、タクミくんが悪いわね」

 え?俺が悪い?

「え?なに?どういう事?」
「先輩。それで、タクミ。これだけじゃなくて、おばあちゃんから習ったから、マフラーくらいなら自分で作れちゃうのですよ?無理だと思いませんか?」
「無理だね」「マフラーまで・・・それじゃ、本当に無理ね」

「え?なに?」

「キミ。キミが、なんでもできるのはわかった。でも、料理ができて、編み物ができる、男子高校生がどこに居る?少しは自重したらどうだ?」
「はぁ言っていいる意味がわからないのですが?」

 元会長が説明してくれたのだが、俺の誕生日が近づいてきていて、ユウキが誕生日プレゼントに悩んで、先輩たちに相談したら、手料理とかどうだと言われて、俺が殆どの料理が作れると、豪語したユウキに、先輩たちがそんな事無いだろうと言って、それなら、食べてみればわかるという事になったらしい。
 そうか、誕生日か・・・もうすぐ誕生日だったな。

 なんか、先輩とユウキが何か言っているがスルーするのが得策だろう。

「そうだ、タクミくん。この後時間ある?」
「え?時間ですか?昼までなら大丈夫ですよ」
「美優!」
「あっそうね。タクミくん。13時から、未来先生のところに行くのでしょ?それ、私たちも関係しているの?一緒に行かない?」
「そうなのですか?俺は別に構いませんが、未来さんに確認だけさせてください」
「えぇいいわよ」

 この時間なら、未来さんなら起きて仕事を始めているだろう。
 メールやメッセでもいいが、電話する事にした。

『タクミ。丁度良かった。今日の13時からの件で話が有ったの』
「え?俺も丁度、未来さんに聞きたかったのですが?お先にどうぞ」
『悪いわね。今日、美和先生も同席するからね』
「え?美和さんも?ユウキは?」
『そういうわけで、ユウキは連れてこないでね』
「わかりました。それでですね。今日の件で、美優先輩と梓先輩が同席したいと言っているのですが?」
『いいわよ。クライアントには、私から言っておくけど、問題はないと思うよ。でも、座るのは、クライアント側だと言っておいてね』
「わかりました」

 電話を切ってから、先輩たちに問題ない事を告げた

「ユウキは留守番になるけどいいよな?」
「えぇぇぇなんでぇぇぇ」
「美和さんが来るからだよ。それとも、美和さんの前で同じ事をいうか?」
「うーん。無理。わかった。でも、お土産は期待しているからね」
「はい。はい。どこのケーキがいいの?」
「タクミに任せるよ!」

 何か、先輩たちがニヤニヤしているのが気になるが、ケーキを買って帰ってくることで、ユウキを納得させる事に成功した。
 ケーキくらいで済むのなら安い物だ。

 食後のコーヒーを飲み終えてから、先輩たちは一旦着替えるに戻ると言っていた。
 美和さんや先輩たちが絡んでいることで、なおかつ、オヤジじゃなくて、俺が呼ばれた事を考えると、学生絡みのことなのだろう。先輩繋がりの人間かも知れない。工業の生徒なら、俺が出ていくのもわかるが、ユウキを遠ざける意味は少なくとも無いだろう。
 未来さんの癖で、嘘を付いているときに、少しだけ語尾が上がって、心持ち早口になる。さっきの話に、嘘が混じっているとしたら、美和さんの事だろう。美和先生と呼んだ。普段は、森下先生と呼んでいる。多分、ユウキには聞かせたくない話なのだろう。

 もしかしたら、ユウキのトラウマを刺激する話なのかも知れない。

 ふぅ・・・行って、話を聞けばわかる事だな。

 11時くらいに、先輩たちが迎えに来てくれると話していた。
 ほぼ、時間通りに、先輩たちが訪問してくれた。俺も着替えを済ませて、玄関に横付けされた車に乗り込む。今日は、助手席に座らせるようだ。会長が一旦降りて、後部座席に移動している。不思議に思ったが、多分何らかの意図が有るのだろう、従う事にした。

 車は静かに動き出した。
 ユウキの家の前を通るときに、ユウキの部屋から、ユウキがこちらを見ているのに気がついた。

 5分くらい走ってから、副会長が切り出してきた。
「キミも気がついていると思うけど、今回のクライアントは、僕と美優の残念な事に知り合いだ」
「梓。残念って酷いと思うよ。あのね。タクミくん。梓も悪気が有るわけじゃないの・・・彼女は、なんというか独特というか・・・私たちの幼馴染だけどね。少しだけ、えぇほんの少しだけ言葉使いが変わっているだけで、いい子なのよ」

 女性の、自分の友達を”いい子”と表現する場合に、それが言葉通りではなく、他に褒める事ができないときの言葉である事は理解している。
 面倒な人だという事になるのだろう。

「はぁその変わっている幼馴染がクライアントなのはわかりました。未来さんのところに行けば謎は解けるので、隠している事が有るのなら、先に教えてください。そうですね。まずは、ユウキを遠ざけた理由からでいいですか?」

「え?」「へ?なんで?」

 やっぱりだ。
 俺がユウキを連れて行かないと宣言したときに、表情を一切変えなかったのは知っていたからだろう。そう考えると、先輩たちが未来さんにお願いしたと考える方が筋が通りやすい。クライアントの事情を知っているからだ。
 未来さんと一度面通しは終わっているのかも知れない。そこで、大まかな話を聞いて、未来さんは、オヤジへの依頼ではなく、俺への依頼にした。オヤジからの指示も、桜さんからの連絡も入っていない。そして、ユウキからの依頼でもない。

 俺が、この依頼を断っても問題ないという事になるのだろう。

「美優」
「そうね。梓。隠しても無駄なようね」

 先輩たちが話をしてくれたところだと、要約すると、ナチュラルに”上から目線”で話す人のようだ。面倒な匂いがしてくる、でも、それだけなら、ユウキを遠ざける理由にはならない。

「それだけですか?」
「うーん。杞憂ならいいのだけどな。彼女は、ナチュラルに、キミを見下す可能性がある」
「ん?」
「それを聞いて、ユウキが怒り出すのではないかと、僕と未来先生の見解なのだよ」
「え?未来さんも?」
「そうね。私もそれが一番怖いと思ったわ。タクミくんと、ユウキが二人で手を組むと、私たちでは止められないでしょうからね」
「は?言っている意味がわからない?俺、そんなに喧嘩っ早くないですよ?」
「え?」「無自覚は、これだから困る。未来先生の見解では、キミは、父親にそっくりだということだ」
「え?それはない・・・っと思いたい」

 そこで、車が未来さんの事務所に到着した。
 なんとなく、理不尽な気持ちになったがしょうがない。オヤジと一緒にされて気分が悪いが、それもしょうがないと思うことにしておこう。

 事務所に向かうと、すぐに応接室に通された。
 クライアントはまだ到着していないようだ。未来さんも部屋に入ってきて、現状わかっている情報を資料として提出してくれた。

 オヤジに頼めなかった事も理解できた。オヤジのクライアントの、同業他社のご令嬢がクライアントだ。それに、予算が少ない。
 ストーカ被害に合っていると書かれているが、それなら素直に警察に行くべき話だ。それができない事が書かれていない。ストーカを突き止めてほしいのなら、弁護士ではなく、探偵でも雇えばいい。先輩たちを巻き込んでいる理由もわからない。

「会長と副会長にお伺いします」
「なに?」「なんだい?」
「先輩たちは、この件にどの程度関わっているのですか?」

 少しの沈黙が流れる。

「キミ。そうだね。僕たちは、巻き込まれたと思っている。美優もそうだよな?」
「えぇそうね。彼女は、小学校の時の幼馴染で、大学の同期生だけど、どこから聞いたのか、それとも調べたのか、わからないけど、あの事件の事を知っていて、どうやって解決したのかを、何度も何度も聞いてきた、タクミくんとの事もあるので、専門家に任せたと説明するにとどめていたのだが、専門家を紹介してくれと言い出して、未来さんに相談したら、席を持ってくれる事になったというわけなのよ」

 ふぅ・・・面倒な匂いしかしてこない。
 ネットストーキングか・・・ユウキを連れてこなかったのは正解だな。

「未来さん。それで、この依頼は・・・」
 黙って、上を指さしている。
 意味するところは、弁護士教会から話が来ているので、断れないという事だろう。

「俺が断るのはいいですよね?」
「問題ないけど、資料を見た、美和さんはからは”タクミなら受ける”と言っていたわよ」

 はぁ・・・そうだよな。
 これを受けないと、ユウキに顔向けできない。多分、ユウキの時とは違う意味で大変そうだけど、ユウキと同じ犯罪で苦しんでいる人を、見殺しにしたら、ユウキが怒り出すだろうからな。面倒な事になるのがわかっているのなら、依頼を受ける面倒の方がいいだろう。
 ユウキを怒らせたり、悲しませるわけには、いかないからな。

「わかりました。まずは、話を聞いてからになりますが、これだけの情報で確かな事は言えませんが、クライアントにかなりの協力をお願いする事になりますが、大丈夫そうですか?」
「やっぱり?」
「えぇ間違いなく、俺の感が間違っていなければですけどね。このクライアントは、顕示欲や承認欲求が強くないですか?目立ちがりやと言えばいいのでしょうか、それでいて、強がりではないでしょうか?」
「第一印象は、そんな感じだね。なぁ美優」

 ネットストーキングが悪化している状態なのだろうか?
 ストーカで難しいのは、ストーカに自分が行っている行為がストーカと呼ばれる行為である事で、それを認めさせた上で、やめさせる事が難しい事にある。しかし、ストーカを見つける事はそれほど難しい事ではない、ストーカは、身近”だった”人間がなる場合が多い。元彼だったり、告白してきた男子だったり、バイトや仕事先の同僚だったり、部活やサークルで一緒になっていたり、さまざまな事が考えられるが、ストーキングされている方も、相手の事がわかっている場合が多い。

 今回のクライアントの様に、ストーカの素性が相手がわからないのは、アイドルやネット上の有名人がストーキングされるときに似ている。今わかっている情報からでは判断できないが、ネット上だけのストーキングではなく、リアルでのストーキングが行われている雰囲気もある。

 ネット上だけのストーキングなら、検索に長けた者なら可能だろうけど、リアルでのストーキングが行われている場合には、情報が溢れているアイドルやネット上の有名人と違って、ストーキングが難しくなる。

 リアルのストーキングが行われているとしたら、考えられるのは、何かしらのハッキングが行われた状況だ。

 そうなると、少しじゃなく厄介な事になりそうだ。
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