俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です
幕間章 伊豆旅行

第一話 旅行前


 伊豆旅行が近づいてきている。
 先輩たちは何やら企んでいるようだが、気にしないほうが良いだろう。聞いても教えてくれるはずがない。

 5泊6日で伊豆を一周する。

 国内旅行だし、先輩たちも居るから問題は無いだろう。
 ユウキも準備をしている。

「オヤジ。この前に盗聴は解決したのか?」

「あぁタクミ。まだ詰めが甘かったな。仕掛けられていたのは一つじゃなかった。全部で3箇所だ。他の場所は、コンセントが外れていたから、使えなかっただけだ」

「・・・。それは、無理だ。そもそも、どうやって見つけた?」

「簡単だぞ?お前が見つけた端末の履歴や、WIFIの設定を見れば他にも設定されているとわかるだろう?」

「あっ!」

「まだ他にもあるという仮定で探せば、コンセントが有って隠せる場所は少ないだろう?」

「そうだな」

「まぁでも、報告書はしっかりしていた。だから、報告書を合わせて、及第点だな」

「あぁ」

「なんだ。不服か?」

「いや、まだまだだなと思っただけだ」

「年季が違うからな。俺は、お前くらいの頃から、電脳世界の住民だからな」

「・・・。そうだ。オヤジ!報酬は!」

「もう少し待て、まとめてお前が欲しがっていた物をくれてやる」

「本当だな」

「あぁ本当だ。沙菜に誓ってやる」

 オヤジは、オフクロには頭が上がらない。だから、オフクロの名前を出したのなら、本当に用意しているのだろう。

「わかった。期待している」

「お前、旅行の準備はいいのか?明後日だろう?」

「あっ荷物は、着替えだけだし、SIMフリーのUMPCを持っていく」

「そうか、ガジェットは大事だからな。そう言えば、ユウキが、カメラを欲しがっていたぞ?」

「いいよ。スマホのカメラで十分だろう?どうせ、すぐに飽きるよ」

「それもそうだな。桜と美和の子供だからな」

 オヤジと話をして、荷物の問題は大丈夫だと思った。
 なにか、隠している様子だが、聞いても教えてはくれない。オヤジも桜さんも、なにか俺とユウキに隠しているのだがそれがわからない。

「タクミ!」

 階下からユウキの声がした。
 俺を呼んでいる。

「ほら、お姫様が呼んでいるぞ」

「はい。はい」

 ユウキが使っている部屋に移動する。
 美和さんが地方に10日か15日滞在する予定の時に使っているトランクキャリーケースを広げて荷物を詰めている。

「タクミ・・・。助けて・・・。入らないよ?」

「ユウキ。何泊か解っているよな?」

「うん。5泊6日だよね?」

「そうだな。着替えの数は?」

「ん?6日分?7日分?」

「5日分だ。初日は、着ていくだろう。ペンションには1泊だけで、後は温泉宿とホテルだ。寝間着になるガウンがあると先輩が教えてくれたよな?ペンションも、着替えはあるけど念の為持っていったほうがいいとは言っているけど、この季節ならTシャツと短パンでも良いだろう?」

「え?あっ。そうだね」

「よし、やり直しだな」

「えぇぇぇぇぇタクミがやってよ。僕には無理だよ」

「ユウキ。下着くらいは自分でやれよ」

「うぅぅぅぅ。でも・・・」

 涙目になっている。
 本当に、こういう作業はユウキは苦手だ。部活の助っ人で遠征に行く時にも、ユウキの荷物は俺が作っている。下着から全部だ。ユウキ以上にユウキの下着の数や種類には詳しいかもしれない。

 ユウキの荷詰めを見ていて思いついた。
 オヤジや桜さんが使っている。中の空気を抜いて圧縮する袋があればもっと荷物が小さく出来るのではないか?
 着替えの分だけ買ってきて、コーディネイトで袋詰をしてしまえば、ユウキに着替えを渡す手間が省けそうだ。

「あっそうだ。ユウキ。今日は、荷詰めだけか?」

「うん。遊びに行く予定は無いよ?明日は、出かけるけど、今日は大丈夫だよ?」

「そうか、100均に行くぞ。着替えろ」

「え?あっうん。どこに行くの?僕、お腹がすいたよ」

「わかった。わかった。ベイドリームでいいな。100均が有っただろう?フードコードでなにか食べればいいだろう」

「うん!タクミ。バイクを出して!」

「わかった。着替えろ。俺は、オヤジに、出かけると言ってくる」

「うん!何、食べようかな?うどんもいいけど、ちゃんぽんもいいかな!」

 ユウキがフードコートの中にある食事処を考え始めた。
 オヤジはまだ作業をしているようだから、外に出かけると、話しておけばいいだろう。

「オヤジ。ユウキとベイドリームに行ってくる。何か、買ってくるものはあるか?」

「大丈夫だ。気をつけていってこいよ」

「わかった」

 部屋に戻って、ライダースジャケットに着替える。外に行く予定はなかったけど、ユウキの荷物の状態を見ると、旅行用のグッズも必要になってくるだろう。100均でも売っているけど、ベイドリームに行くなら、ジャンボエンチョーでちょっと高めの物を買ったほうが長持ちするかな。
 あと、化粧品も少しは持っていくようだから、整理出来るようなグッズがあればいいかな。

 本当に手間がかかる。

 バイクに火を入れて待っていると、ユウキがライダースジャケットを着て出てきた。この前、新調した物を早速着ていくようだ。

 10分も走れば、ベイドリームに到着する。バイクを駐輪場に止めて、店内に入る。ジェケットは脱がない。

「あれ?100均は上だよ?」

「あっエンチョーで少しだけ良いやつを買おう。その方が長持ちするだろう?」

「うん。でも、何を買うの?」

「すぐにわかるよ」

 ユウキを連れて、旅行用品の売り場に移動する。
 空気を抜いて小さく折り畳めるビニール袋を、12枚購入する。一泊一枚にしておけば困らないだろう。丸められるし、収納がしやすくなる。
 これならユウキでも迷わないはずだ。他にも、化粧品を収納するバッグや、折りたたみの傘などの旅行に必要になりそうな物を購入した。袋ではなく、持ってきたリュックサックに入れてユウキが背負って帰る。

「タクミ。僕、お寿司が食べたい!」

「はま寿司だぞ?」

「うん!はま寿司。好き!」

「わかった。ちょっと待て、予約する」

「うん!」

 スマホから、はま寿司のサイトを立ち上げてログインしてから予約を確認する。
 飯時なので、すぐには入られそうにない。30分くらいの待ち時間のようだ。

「ユウキ。30分くらい待つぞ?どうする?」

「うーん!そうだ。タクミ。ノジマに行こう!僕、部屋にドライヤーが欲しい。この前の報酬を貰ってないよ!」

「あんまり高いものは駄目だぞ。今日、手持ちが多くないからな。あっちょっと待って」

「え?あっうん。何?」

「オヤジから電話」

 手でユウキに合図をして黙らせる。

『タクミか?』

「あぁ」

『ユウキが。報酬とか言い出す頃合いだと考えたけど、合っていそうだな』

「え?なんで?」

『美和が、思い立ったらすぐに欲しがるからな。ノジマが有って、なにか欲しいと言い出したのだろう?』

「当たり。それで?」

『ノジマでいいのか?』

「あぁドライヤーが欲しいとか言っている」

『ノジマならキャッシュレスが使えるな。お前のアカウントにチャージしておく、2万円分入れておく、報酬としてユウキと二人で使え。前払いだ』

「わかった。正直、助かった」

『ハハハ。ゆっくりしてきていいぞ?俺も仕事が入った。沙菜も今日は帰ってこない。桜は出ているし、美和は出張だ』

「わかった。ユウキにも言っておく」

 電話が切れた。
 オヤジとの会話をユウキも聞いていたのだろう。嬉しそうに俺の手を引っ張って、ノジマに向かう。

「ユウキ。先に、予約をするから待て」

「うん。わかった」

 どうやら、狙っていたドライヤーがあるようだ。旅行にも持っていくようだ。
 値段を見たら、1万3千円(税抜)だ。オヤジから軍資金をもらわなかったら買えなかった。

 残ったチャージは、俺が預かっていて良いようだ。

 予約の時間まで余裕があったので、本屋に寄った。
 ユウキが旅行先の情報誌が欲しいと言い出した。伊豆なら正直な話、必要はないと思うが、トランクキャリーケースに余裕ができそうなので、本も持っていきたいようだ。土産物も買うつもりなのに大丈夫なのか?

「ユウキ。土産も買うのだろう?」

「え?あっうん。だけど、先輩の車に詰んでおけばいいよね?詰めるよね?」

「そうだな。余裕はあると思うぞ?」

 余裕がなければ、ホテルでダンボールでも貰って、着替えとかを詰め込んで宅配便で送ってしまえばいい。
 オヤジや桜さんがよく使う方法だ。

 ユウキに説明するのも面倒なので好きにさせた。
 はま寿司で好きなだけ食べさせた。デザートまでしっかりと食べてから、家に帰った。

 風呂から上がって、ご機嫌で新しいドライヤーを使っている。
 夕飯は、寿司が胃に残っていたので、蕎麦を食べるだけにした。ユウキが、夜中にお腹がすいたと言い出すのは間違いないので、夏みかんを剥いて砂糖をまぶした物を作って冷蔵庫で冷やしておく、次いでにゼリーも作っておけば、大丈夫だろう。ゼリーはユウキが好きなイチゴとミカンでいいだろう。

 俺も、自分の荷物を入れ替えて詰め直しておこう。
 ユウキのお土産次第では、俺のトランクキャリーケースに入れて欲しいと言い出すだろうからな。スペースは作っておいたほうがいいだろう。
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