俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です
第九章 怪しいバイト

第一話 怪しいバイト


 日常が戻ってきた。
 戻ってきたと考えるのもおかしな話だが、戻ってきたが正しいだろう。

 結局、ハッキング大会は俺たちの有志チームが席巻した形になった。2位のチームも、複数チームと連動して攻撃してきたが、堅牢なシステムは崩れなかった。

 有志チーム以外では、パソコンをルータにしたチームはなかったようだ。
 用意されているルータを使って、ネットワークを分断したのも、20チーム程度だと統計が出てきた。

 大会が終了する直前で、終了の11時から構築したシステムを触らないで欲しいと通達が来た。レギュレーションの確認をすると言われたのだ。
 後輩チームから緊急の連絡が入ったが、別にレギュレーション違反はしていない。抜け道は使ったが、それだけだ。違反だと言われる様な内容ではない。

 調べていたのは、レギュレーションに対してではなく、どのように防御して、どのように攻撃をしていたのかをまとめるためでもあったようだ。

 10日が経過してから、運営委員会から各校とチームの評価が渡された。
 そこに、集計データとして各校の動きや設定などが書かれていた。

 上位入賞チームは攻撃よりも防御に重点を置いていたようだ。
 2位のチームは面白い防御方法を使っていた。ルータが市販の物で、攻撃に対して弱いと考えてからは、サーバへのアクセスログを調べて、サーバでデータ解析を行っている時間は、ルータを切り離していた。攻撃を交わす目的もあったのだろうが、確実に実績を積み上げる方法を考えたようだ。有志チームとの差は夜間の防御態勢にあったようだ。

 有志チームで攻撃チームを除いたチームの敗因も解った。ルーティングテーブルの設定を間違えていたようだ。気がついて直した時には、ある程度の時間が経過していた。後半に、それを取り返そうと攻撃に力を注いでいる時に、ルータへのアクセスが集中して、送信が遅延しているのに気が付かなかったようだ。

 失格になったチームもあった。
 禁止されている機材を持ち込んだようだ。メモリを増やして、サーバを早くしようとしたようだ。最初から不正を行うつもりで考えていないと、メモリを持っていくことは無い。2チームがメモリを増やして失格で、1チームが小型パソコンを持ち込んだようだ。
 メモリを増やして、45位とは北山は本当に能力がなかったのだな。

 パソコン倶楽部の会計を生徒会で精査した。
 不正が大量に見つかった。購入したと書かれている機材が紛失していたり、SDカードやUSBメモリを大量に購入していたり、DVDやBDの空のメディアを購入していた。メディアは、ある程度は消費する可能性もあるが、機材がなくなるのは問題だ。それ以上に、USBメモリやSDカードが一つもなかった。後輩に確認したが、パソコン倶楽部では見かけなかったと証言している。

 今日は、面倒だが津川先生との話し合いだ。

「篠崎くん。話を聞かせてください」

 どうやら津川先生は、関係はないようだ。

「お渡しした資料の通りです」

「だから、”なぜ”この様な事になっているのかを知りたいのです」

「それを、俺に聞きますか?俺が、先生に聞きたいのです。パソコン倶楽部の顧問である。津川先生に・・・」

 資料にかかれているのは、生徒会のメンバーと俺とユウキが調べた物だ。元パソコン倶楽部の後輩にも協力してもらった。

 パソコン倶楽部が出来てから、購入したことになっている備品の一覧を出している。その中から、生徒会が検査して、なかった備品を津川先生に探してもらうのだ。USBメモリやSDカードは数が多いので、枚数とパソコン倶楽部にあった数が記載されている。
 2年間で、購入価格で考えても30万円以上の備品の所在が不明になっている。
 部活連からの援助が入っているが、元々は部費なので、学校からの資金だ。

「篠崎くん。この資料は?」

「戸松先生には共有しています」

「・・・」

「1週間待ちます。皆が納得できる処分をお願い出来ますか?」

「補填でも?」

「もう二度と同じ事を繰り返さないのなら・・・。でも、メモリを増設したり、他のチームを脅したりして、高校の名前を貶めた件もあると考えてください」

「・・・」

「津川先生」

「わかった。厳正な調査を行う」

「お願いします」

 金額的な補填で終わらせるわけには行かない。
 部活連が腐敗の温床に思えてきてしまう。確かに、運動部を取り仕切るためには必要な組織なのかも知れないが、生徒会に近い権限を持ってしまっているのが問題だ。今回は、パソコン倶楽部が”文化部”で部活連の範疇外だったから、生徒会の検査を拒否できなかった。これが、運動部なら間違いなく拒否されていただろう。

 津川先生に通告をしてから、5日が過ぎた。
 期限が迫ってきた。

 学校が終わって、ユウキと大将の店に来ている。

「ほれ」

 大将からチープな焼きそばを受け取る。”チープ”という言葉が褒め言葉になる極めて稀なケースだ。

 焼きそばを食べながら、たこ焼きを大将から受け取る。ユウキが2皿食べると言い出したので、たこ焼きは3皿注文した。夜の仕込みの前だったので、串焼きも出してくれた。

「そうだ。大将。この前、言っていた話は進んだの?」

「ん?あぁホームページを作るって話か?」

「そうそう」

「断った。最初はタダだけど、翌年から毎年5万円かかると言われたからな」

「へぇ」

 大将の店はWebサイトを持っていない。必要があるとも思えない。
 俺は初めて聞いたが、ユウキが相談を受けたそうだ。俺が、パソコン倶楽部の備品の確認をしていたので、オヤジに相談したそうだ。オヤジも、大将のことを知っていたので、話を聞いたそうだ。そこで、相手から出ていた条件が高すぎると指摘したのだ。打ち合わせの場所に、オヤジが大将の助言役として出たらしい。
 オヤジへの報酬は、焼きそばだったらしい久しぶりに食べたくなったと笑っていたらしい。

「そうだ。タクミ。お前、生徒会だよな?」

「えぇ」

「ちょっと小耳に挟んだ話で悪いけど・・・」

 大将が話してくれた内容は、少しではなくまずいかも知れない。

「大将。それは、噂ですか?」

「そうだな。実際に、やっている奴を見たわけじゃないけど、急に羽振りが良くなった奴が居るのは確かだな」

 大将からの情報だけでは不確かだけど、なにかしらのバイトをしているのだろう。
 学校では、バイトは禁止されていない。ただ、バイト先の届け出と雇い先からの承認の書類が必要になる。短期バイトの場合でも同じだ。もちろん、俺も届け出を出している。自分で会社を立ち上げていると正直に話してある。

 大将から話を聞いた翌日に、ユウキと一緒に生徒会室に向かった。
 バイトの申請が行われているのかを調べるためだ。

「タクミ。やっぱりないね」

「そうだな。そもそも、運動部に入っている連中からのバイト申請がないからな」

「うん。バイト禁止にしている部も多いからね」

「そうなのか?」

「そうだよ」

 確かに、運動部からの申請には細かい理由が書かれている。だから、運動部でしっかりと管理しているのだと思っていた。

 大将の話が本当な・・・。違うな。大将が、俺を騙す必要はない。本当に聞いた話なのだろう。

 バイト話。
 それも、暇な時に返事を返すだけで、数十円から数百円。
 心当たりがある。確かに、違法ではない。違法ではないが・・・。

「タクミ。そう言えば、ほら、あの後輩ちゃんたち?」

「ん?元パソコン倶楽部の?」

「そうそう。彼女たちと、この前、偶然、大将の所であってね」

「へぇ」

「なんて言った・・・。キタムラ?」

「北山?」

「そうそう、その、キタヤマもよく大将の店を利用していて、運動部の人たちと話をしていたみたいだよ」

 アイツか・・・。
 何か裏がありそうだな。そういやぁアイツが持っていたノートパソコンのスペックはかなりの高かった。ゲーミングノートパソコンだったな。それに、ハッキングツールも安い物ではない。
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