魔女の紅茶
さようなら、僕の、

 どうして、お前が。
 そう言われるのは当然だろう。何故なら僕が、一番そう思っているからだ。どうして?なんて、そんなの僕が一番知りたい。

「という風に、ぼ……わ、私共は聞いています。魔女様」

 事の始まりはおよそ半年前。僕の生まれ育った国の国王が「魔女様に宛てた手紙の返事が来ない!」と若干のヒステリーを起こした。それがこの現状の起因だった。「返事が来ないのならば此方からもらい受けに出向けばいい!」と僕の所属する第三騎士団に指令が下ったのは今よりちょうど三週間ほど前だ。副団長を基として中堅の先輩団員二名と今年入団したばかりの僕と同期の下っ端二名の計五名で魔女様の元を訪れたまでは良かったのだが。

「あの、魔女様、」
「何」
「その、副団長だけでも、ここに呼ぶのを許しては頂けませんか」
「何故?」
「いえあの、ぼ……わ、私はその、入団したばかりの下っ端でして、」

 問題はそう、魔女様の所有する敷地内へ足を踏み入れる事や魔女様との対話を許可されているのが僕だけだという事だ。何がどうしてそうなったのか。何度も言うけれど、そんなの僕が一番知りたい。
 立派な門越しに指をさされ「きみだけ」と言われて、え、え、うえ?と情けない声をあげるしか出来なかった僕に反して副団長は(こうべ)を垂れて了承の意を示したのにも勿論驚いたし「何故ですか」と抗議もしたけれど、許可なき者がどんな形であれ魔女様の物に触れるとたちまち灰になると聞かされればもう従う他なかった。

「きみ以外を招くつもりはないわ」
「ですが、」
「それより、紅茶が冷めてしまうわ。どうぞ、遠慮せずに召し上がって」
「……あ、えと、」

 微塵も表情を崩さずに、赤褐色の液体が入ったティーカップを魔女様はゆっくりと持ち上げる。
 館の中へと招かれた時には既に用意されていたそれ。魔女様の淹れた紅茶がどんなものであるのかを知っている僕は、とてもじゃないけど怖くて飲めないという本音を曖昧に微笑んで誤魔化した。
< 3 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop