諦めた心

飛行機の中もタクシーでも
俺も母さんも祈る気持ちで
到着を待った。

短い時間なのに
全てが長く感じていた。

「すみません。
佐野と申します。
妹が、一華と言う女性が
こちらにいますか?」
と、受け付けにいる看護師さんに
訊ねると、少し考えてから
「お母様とお兄様ですか?
少しお待ち頂いても?」
と、その方に言われて
「「はい」」
と、母と答えた。

少し待ち
その看護師さんに案内されて
一つの部屋へ。

病室だろうか?
そう思っているのが
わかったのか
「今は、入院患者さんを
受け入れてはいません。
医療器機も揃っていませんから
先生が診て本土の病院へ
お願いしています。
妹さんの場合は·····
では、どうぞ。」
と、言われて
ドアが開き、その先に初老の男性が
立っていた。

「先生で、いらっしゃいますか?」
と、母が訊ねると
「そうです。曽我屋と申します。」
と、言われた。
「娘の一華ではないかと
言われてきました。」
と、伝えると
「娘さんであると良いのですが
どうぞ。」
と、言われ、ベッドに近づくと

ベッドの上には
頭に包帯を巻かれている
女性が眠っていた。

その顔は、正しく一華だった。

一華にすがり付き涙を流す母
俺は、一華の頭を撫でながら
「間違いありません。
妹の一華です。
あっ、妹は、佐野 一華と言います。
先生、一華は、いつこちらの病院に?」
と、訊ねると
「話も長くなりますから
座りましょうか?」
と、椅子を3脚だしてくれて
三人で腰かけた。

「お嬢さんがこの病院に
運ばれたのは、ふた月半前です。
漁師の網に引っ掛かっていたらしく
何人かで運んで来てくれました。

体中、傷だらけで
どこから血が流れているのかも
わからなくて
まだ、少し後はありますが
擦り傷や切り傷は治りつつあります。
頭は、傷が大きかったので
縫合しています。

それに左手は、骨折しています。
岩か流れてる材木に
ぶつかったのか
背中とお腹に大きな傷があります。
打ち付けられた為か
脾臓がさけていましたので
縫合をしています。
そして······

と、先生が一華の症状を説明して
いると、母さんがふらついた。

母は、そんなにあるのかと
どんなに痛かったのかと
思ったのだろう

「母さん、大丈夫か?
俺が聞いてもいいんだよ。」
と、言うと
「大丈夫。先生、すみません。」
「いえ、お母さん。
無理をされないで下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
「それでは、続けますね。」
「脾臓が大きく破裂していたら···
と、思うとゾッとしますが。
いまでは、もう落ち着いています。
それから·····
娘さんの左足は網に巻きこまれた上
凍傷で壊死していまして
第3趾(中指)、第4趾(薬指)、
第5趾(小指)は、切断しています。」
母さんは、先生の言葉に椅子ごと
倒れてしまった。

「母さん!!」
先生の計らいで
母さんは、一華の横のベッドに
横にさせてもった。

「すみません。」
と、言う俺に先生は申し訳なさそうに
「いえ、こちらこそ
配慮が足りませんでした。」
と言ってくれる先生に俺は首を横に
ふりながら
この病室に入ってからの
疑問を口にした。

「先生?一華の意識は?」
「実は、そうなんです。
ここに来てからも
ずっと眠り続けています。」
「そんな········
「彼女自身が目覚める事を
拒否しているのか
頭の中で何かが起こっているのか
わかりません。」
「先生····妹は、一華は海で
発見されたのですよね?」
「はいそうです。
あの妹さんは······」
「きっと、妹は····一華は·····
自殺を図ったのだと······」
「そうでしたか。」
と、悲しそうに言う先生に
俺は今までの経緯を
先生に一華からの手紙を見せながら
話しをした。

◯父が亡くなったこと。
◯父の意識を引くつもりで
付き合うことに了承した
自分の友人のこと。
◯その友人である恋人に
お前が死ねばよかったと言われたこと。

「一華自身、父親が自分をかばって
亡くなり、母や俺に申し訳ないと
思っていたのに·····
あいつ······は····

「そんなことが、あったのですね。」
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