お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「夏美ちゃん、君はなぜここに? ……まさかなにかあった?」

「いえ、違うんです」

 私も相談に来たのだと勘違いしたらしい。聖司さんに慌てて両手を振る。


「実はその……最近結婚しまして」

「……夏美ちゃんが、結婚?」

 聖司さんの視線が、私から隣にいる拓海に移る。

「はじめまして、夏美の夫の祖父江拓海です」

「祖父江さんってことは、あなたは湊人の?」

「弟です」

「園田聖司です。僕は彼女の兄弟子でして」

 聖司さんが右手を差し出し、握手を求める。拓海も「よろしくお願いします」とそれに応えた。


「しかし、ずいぶん急だったね。お祝いもなにもせずに申し訳ない」

「いえ、お知らせもせずにすみません。式よりさきに入籍をすませたので」

「……そうなんだ」

 シルバーフレームの眼鏡の奥、切れ長の目が一瞬すぼまった。ひょっとして、妊娠したから式より先に籍を入れたとか、思い違いしてる?

「ち、違うんです。そういうことではなくって」

「僕が結婚を急いだんです。夏美と一日でも早く一緒になりたくて」

「ちょっと拓海!」

「いいだろ。本当のことだ」

 いくら契約結婚がばれたら困るからって、初対面の人になんてこと言うの……。


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