お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 それなのに加藤さんは、子どもの頃囲碁クラブに入っていたとか、高校のときには、校内囲碁大会で優勝したことがあるだとか、ちょっと自慢も交えつつ夢中で話している。

「共通の趣味もあるし、僕たちきっと和やかな家庭を築いていけると思うんです!」

 ええ? 趣味が同じってだけで? そんな安直な、と思ったのも束の間、加藤さんはガタンと派手な音を立てて立ち上がった。

「ちょ、ちょっと。加藤さん!?」

「夏美さん、ぜひ結婚を前提に僕とお付き合いを!」

 お見合いの席でお付き合いを申し込むなんて、あまりにも性急すぎる。呆気にとられているうちに、テーブル越しに両手で右手を取られてしまった。

 緊張しているのか加藤さんの手はじっとりと汗ばんでいて、あまりいい気持ちはしない。振りほどきたくても、驚くほど力が強い。


「……夏美さん!」

 いったい何事かと周囲のお客さんも驚いているというのに、加藤さんはいっこうに気にする様子もない。異様な熱を帯びた加藤さんの視線に、背筋がぞくりと粟立った。

「いやです、離してくださいっ!」

「そんなに恥ずかしがらなくても」

「お願いだから離して! 嫌だって言ってるじゃないですかっ」


「失礼」




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