わたしにしか見えない君に、恋をした。
「もうやめようよ。明子にしてること全部」

あたしの言葉に、サエコは信じられないというように目を丸くした。

「……は?流奈ってばどうしちゃったの?明子になんか言われたわけ?」

「違う。ただ、こんなことしたくない。ずっと嫌だなって思ってた。だけどどうしても言えなかったの」

「ちょっ、流奈。どうしちゃったの?」

あたし達の会話を聞いていたナナも動揺している。

「なに今さら。アンタだって明子のことイジメてたじゃん」

「うん……。そうだよね。分かってる。でも、もう明子を傷付けるようなことしたくないの。もう二度と……だから――」

言った瞬間、頬に痛みが走った。

左頬がジンジンと痛む。叩かれたんだ。

そう理解すると目頭が熱くなって慌てて唇を噛みしめた。

泣かない。絶対に泣かない。

サエコが怒りに顔を赤らめてあたしを睨み付けている。

「うざっ。今さらいい子ぶってんじゃねぇよ」

「ちょっ、サエコ!待ってよ!!」

そんなサエコのあとを黙って追いかけていくナナ。

面と向かってサエコに自分の意見を言ったのは初めてだった。

あたしは自分の手で必死になってしがみついていた居場所を手放した。

でも、不思議と嫌な気持ちにはならない。焦りもない。

それよりも二人から解放されたという気持ちのほうがずっと強かった。

間違っているのか、間違っていないのか……それは分からない。

でも、これだけは胸を張っている。

あたしは自分の気持ちをちゃんとサエコに伝えられた自分がとても誇らしかった。
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