わたしにしか見えない君に、恋をした。
「二人三脚でる人―!校庭に集まって~!」

遠くの方で先生の声がする。

きっと、見ていてくれるよね。

だからね、湊。あたしは勇気を出すよ。

失敗したっていいよね?

誰に見られてもいい。笑われてもいい。

もう、やめるよ。弱い自分に別れを告げる。

あたしはスッと立ち上がると、明子の元へ歩み寄った。

「明子、ごめん。やっぱりあたしがリレーにでる」

「え……?」

「ギリギリまで考えたけど、やっぱりこのままじゃダメだと思う。今逃げたら、ずっと自分から逃げることになる。だから、お願い。今さらだけどあたしと交換して」

「流奈ちゃん……」

明子は少しだけ驚いた表情を浮かべながらも頷いた。

「うん、わかった。応援してるね!」


いよいよだ。

リレー選手の招集がかかった。

緊張しながら歩を進めるあたしの前方からサエコとナナがやってきた。

少し構えながら二人に視線を向ける。

二人はあたしの手にあるクラス色のハチマキに視線を向けた。

「流奈がリレーにでんの?」

「うん」

二人としゃべるのは久しぶりだった。

連絡も一切取っていない。時々、二人があたしに聞こえるように教室の中でわざと大声で悪口を言っていたのも知っている。

多分、わざとあたしの気を引こうとしていた。

「明子に押しつけたんじゃなかったの?」

「最初はね。でも、もう二度とあんなことはしない」

ハッキリした口調で言うと、ナナがあたしをまっすぐ見つめた。

その目はなぜか優しかった。

「なんかさ、流奈、変わったね」

「そうかな?」

「うん。なんか、変わったよ」

【クラス対抗リレーに出場する選手は校庭東側に集まってください】

スピーカーから放送が流れる。

「もう行くね」

そう言って微笑むと、

「あとで話があるの。明子のことで」

サエコは少しだけぶっきらぼうに言った。

「うん。わかった」

「――流奈、頑張って」

照れ臭そうに言った二人の言葉に胸が熱くなる。

あたしの言葉も気持ちもきっと二人に伝わった。

伝わったんだよね……?

「ありがとう。頑張るね」

あたしは二人に手を振り校庭目指して走り出した。

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