わたしにしか見えない君に、恋をした。

消えていく君

県大会の予選だというのに会場は大勢の観客でにぎわっていた。
「すごい人だね」

「だなー」

第一試合はすでに始まっていた。高校生ということを忘れてしまうようなダイナミックなプレーに胸が熱くなる。

「うわっ。あの10番足速い……。レベル高いね」

思わず声が漏れる。愁人も高校生になり中学よりも更に技術が上がっているはずだ。
ふと隣に座る湊に視線を向ける。

すると、湊は目を見開いてどこか一点を眺めていた。

「湊……?」

「あぁ」

ハッとしたような表情の湊。

「大丈夫?」

湊の手をギュッと握ると、湊が優しく握り返してくれた。

でも手に力がない。

体温が下がっている。

「寒いの?」

「ちょっとな」

「もう、帰る?」

「まだ愁人の試合見ていないだろ?」

「あたしは湊の体の方が……――」

「大丈夫」

「でも……――」

「大丈夫だって。つーか、悪いんだけどさ飲み物買ってきてくんない?手が冷たくて」

心がさざ波立つ。

本当はこの場を離れたくない。でも、湊の願いならなんでもかなえてあげたい。

あたしにできるのはそれだけだから。
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