わたしにしか見えない君に、恋をした。
最終章

失った記憶


6時起床。7時朝食。9時回診。10時検査。12時昼食。13時リハビリ。14時入浴。18時夕食。22時就寝。

ここ数日の俺のルーティーンだ。

大部屋の空きがないからという理由で個室にされたせいで、病室内は常に静かだ。

わずかに開いた窓の隙間から吹き込んだ風がカーテンを揺らす。

「……――湊先輩」

「おぉ、愁人か」

面会時間ギリギリにやってきた愁人が病室にやってくる。

そうだ。愁人が来るのもルーティーンになっていた。

「毎日部活の後にくんのきついだろ。そんなに気遣うなよ」

「いや、俺が来たくて来てるんで」

「なにそれ。お前、俺のこと好き?」

「……はいっ!?なんでそうなるんっすか!」

「来たくて来てるとか、言う?」

「いや、だから、それは……――」

「いいっていいって。お前は可愛い弟みたいなもんだから」

「だから、そういうんじゃ……」

ブツブツと何かを呟きながら唇を尖らせた愁人。

「で、アイツにまたなんかされてない?」

「金山先輩ですか?」

「そう」

「……大丈夫です」

「ホントか?」

「はい。自分で何とかします」

強張った表情を浮かべたところからすると、いまだに金山にあれこれ嫌がらせをされているようだ。

「3年はもう少しで引退だし、あとちょっとの辛抱だな。でももし無理なら早めに言えよ?話ぐらい聞いてやれるし」

そこまで言ったところで、心の中がモヤッとした。

以前、そのセリフを口にしたことがある気がする。

< 156 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop