可愛らしさの欠片もない
自分のアパートを通り過ぎ、大島さんの部屋に来た。
缶チューハイを開けた。一口飲んだ。
「…美味しくないですね」
甲斐さんに会ったときに飲んだときはちゃんと味がした。
「貸して、俺が飲む」
グビグビと音を立てて一気に飲み干した。
「はぁ、…くそぅ…」
…大島さん。
「私、結局、何も知ることがなかったです。自然と嬉しくなって、そんな気持ちのとき…沢山質問したのに…一度に多すぎて……ハハ。答えられないって言われて。誕生日すら知らないままで…」
「咲来さん…」
「…胸が痛いです。失敗した…しょっぱいおむすびしか食べてもらってない……私が作った物って…そんな物で……兄弟は?とか色々聞いたのに…何も…もっと早いうちに聞いてたら、何も考えずに素直に聞いてたら、教えてくれてたんですかね。私、やきもちばっかり妬いて、可愛らしいこと一つも言えなかった…」
「…知らなくて良かったんだよ」
知ればそれも記憶に残るから…?
「私…」
好きだったんだな、本当に…好きだったんだな。だって、甲斐さん…。好きだって。
「…はぁ。咲来さん。俺、本当、何も言ってあげられない。…駄目だな。何て言ったらいいか解らないよ…このくらいしか…してあげられない」
あぐりを組んでいた。正面から抱きしめられた。
「…何もしないから」
「………抱きしめてる」
「え?ああ、うん、そうだね、抱きしめてるな」
なんだか、頑張れって、言われてるような気がした。
「…有り難うございます……お願いします」
顔を見られたくない。
「…ああ、抱きしめてる」
「…有り難うございます」