可愛らしさの欠片もない
・知りたい

鉄は熱いうちに打てって言うじゃない。まずは、まちぶせ。というか、今までの行動通りにしてみるしかないってことだ。
几帳面に、いつも乗る車両が同じなのか。それすら解らない。本当にここら辺に関わりのある人で毎日電車にも乗るのか…。
運よく会えたとして、いきなり捕まえて気持ちを伝えるなんてそんな……気持ち悪がられないだろうか。…はぁ、だから、そんなことを言っていたら逃してしまうんだって。出来ないならその程度の思いってことでしょ?恥をかくことが嫌だって思ってるからよ。解らないことを思案したって所詮答えは出ない。答えが出るのは当たってからなのよ。それすら、当たる機会をもらえるかも今は解らないのよ。
いい?これは勝負なのよ。自分をそうとう追い込まなきゃ出来ないの。会えなければ、終わり、負けなのよ。

気持ちが強すぎるのか、縁はとうに切れてしまったのか。
変わらない行動を繰り返してみても見かけることがなくなった。自分に甘く考えるなら、あのときに限ってこの辺に居たってことだ。会えない理由はそのせいだって…。
はぁ、虚しい…いざ心を決めてことに当たると、成果があがらないことがこんなにガックリくるなんて。…もう駄目なのかな。遅かったってことなのかな。
会社に遅れてもいいから、あのとき跡をつければ良かったかな。
ううん、やらなかったこと、出来なかったことだから、しておけばなんとかなってたなんて思いがちなのよ。結局、どんどん離れて行く背中を追うことはしなかったんだから。…はぁ。
…こういう人、知らないですか?って、聞いて回れば、一人くらい知ってるよ、って人に会わないかな。思い当たる人に会わなくても、廻り廻って噂になって伝わらないとも限らない。
写真一つあるわけじゃないから、自分の主観で外見を表現してもそれはきっと伝わりもしない。ボキャブラリーが不足してる。とにかく素敵な人ですと、言い続けそう。似顔絵が抜群に上手いって、そんな技能があるならとっくに書いてるし。…はぁ。

普段、通り過ぎるばかりで座ったこともなかった連結された椅子に腰を下ろした。はぁ、ちょっと、もう、疲れちゃった…。
顔を両手で覆い、重い息を吐いた。

「……お疲れ様でした。ではここで」

…ん?

「ああ、お疲れ様、いい発表だった。じゃあ」

……いい声の二人。上司と部下ってところかな。一仕事、終わったんだ。


「…大丈夫ですか?ご気分が悪いとか……」

……え?
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