可愛らしさの欠片もない
・どうしたい

「無理強いはしない。何があればいい。確約か?何か、保証になるものがほしいのか…」

「え、そんなこと…」

…書面?そういうものでは…。……無理強い…。
そもそも、そんな…深い関係ではない。ただ、気持ちが揺らいで仕方がないってことだ。だからなしにしようって言ったにもかかわらず、同じように返された提案に踏ん切れない。

「それがあるからって、そればかりに縛られては気持ちはどうなるか解りません。そんな物があるからって理屈で上手くいくものではないです」

結局は気持ちがあるかないか。

「はぁ、解ってるよ…。切らさない。持続していることが大事だって。そういうことなんじゃないのか…」

その通りだと思う。綺麗事では済まされない。好きなら今は離れては駄目だ、離れてしまえば終わりだ、何もなかったことになってしまう。何もないけど、言葉では交わしたのよ。
それが今の感情では、そうなりたくない、って思ってる。終わることは簡単だけど終わらせたくない。甲斐さんを思い始めてるからだ。その思いは少しずつ膨らんで大きくなってる。こうして時間を共にしていることも。足されている。多分、私も甲斐さんも同じくらいの思いだ。
…着地点が見つからない。着地…したくない。

「どうしようか…」

「……どうしましょうか」

答えは出したくない。


「…失礼します。…珈琲、新しい物をお持ちしますね。それと、試食して頂きたいスイーツがあるのでそれも。感想を頂けると有り難いです。すぐお持ちしますから…」

カップを下げに来たのだ。
あ。揉めてると思われたんだ。思われても仕方ない。だって奥の席だと思って…遠慮なく話していた。これはいわば、ブレイクタイム、それをお店の人が作ってくれたということだ。

「試食なんて…なんだか気を遣わせてしまったみたいですね」

「あぁ…、そうみたいだな。…はぁ」

情けないと思って出たため息だろう。
回らなくなった頭。……落ち着かせる時間。

「…あの」

提案がある。……でもこれは…どう取られるか。私のことは性格や思考など何も理解されてもないのに。…こんなこと…。
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