きみと秘密を作る夜


1分のようにも、何十時間のようにも思えたが、実際は15分ほどだったようだ。

車の間を縫うように進み、時には裏道を抜けながら、バイクはものすごい速さで中央病院に到着した。


が、やっぱり私の足は、そこから動かない。



「里菜子!」


晴人が私の体を揺らす。



「無理だよ。私、行けない」

「何言ってんだよ! ばあちゃんが待ってんだろ!」


かぶりを振り続ける私にしびれを切らしたのか、晴人は小さく舌打ちに、強引に腕を引いた。

抵抗しようとしたのに何もできないまま、私は半ば引きずられるように院内へと連れて行かれる。


晴人が受付で祖母の名前を出して尋ねると、今は緊急手術を終えて、集中治療室にいると告げられた。



「集中治療室って……」

「大丈夫ってことだろ? 早く行ってやろうぜ」


晴人の言葉に、私はいよいよ覚悟を決めるしかなかった。



晴人は、震える私の手を取り直し、ふたりで意を決したように集中治療室へと向かう。

ひっそりと静まり返った廊下を進んだ先には『ICU』と書かれていて、そのドアの前には母が立っていた。


そこまでで足を止めた晴人は、私と繋いでいた手を離し、母に向かって頭を下げた。



「……リナ?」


母は、私と一緒に晴人がいたことに、ひどく困惑した様子だった。

けれど、すぐに状況を察したらしい。



「ハルくん。あなたが娘をここまで連れてきてくれたのね。色々と思うところはあるけれど、こういう事態なので、今日は素直に感謝します。ありがとう」


あれほど晴人と関わることを許さなかった母が。

でも、だからこそ、今がとてつもない緊急事態なのだろうと思った。
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