きみと秘密を作る夜

迷情



遼と距離を置いたことは、あさひには言わなかった。

そうでなくても祖母のことで心配させてしまったのに、これ以上、心配の種を増やしてしまうようなことは言いたくなかったから。



誰とも連絡を取らずにいる、日曜日。


母とふたりで休日にゆっくり家にいることが、何だか不思議な感じだった。

今までは母が休みだと、顔を合わせたくなくて遼と会ったりしていたが、もうそんな必要もない。



「お母さん、最近やっと夜勤減ったよね。よかったね」

「そうね。人も増えたから、シフトにも余裕が出て、ずいぶん楽になったわ。おかげで、たまに時間を持て余すこともあるけれど」

「こっちにきてから働き詰めだったんだから、いいんじゃない? 趣味見つけるとかさ、色々やればいいじゃん。家のことなら大丈夫だから」

「あら、すっかり大人みたいなこと言って」


母は茶化して笑ったが、しかしどこか嬉しそうな顔だった。

私は「さーて」と腕まくりして、キッチンに立つ。



「何をするつもり?」

「薄力粉とかベーキングパウダーとか、消費期限が近いから、何かに使わなきゃと思って」

「ホットケーキ? それともパンでも焼く?」

「うーん。おばあちゃんなら何に使うと思う?」

「そりゃあ、おばあちゃんなら、ドーナツでしょ」

「だよねぇ?」


私と母は、顔を見合わせて笑う。

「手伝うわ」と母も言い、横に並んでキッチンに立った。


少しのくすぐったさはあったが、こういう時間も悪くないなと私は思った。

< 213 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop