きみと秘密を作る夜
「マフラー、他にもあったと思うけど」


そう言った母の手が、紙袋を掴んだ。

私が、奥の奥に、隠すようにしまっていたもの。



「あ、ほら、あったじゃない」


紙袋の中には、モスグリーンのマフラーが。

晴人に返すことも、そのまま捨てることもできないまま、自分の気持ちと一緒に封印したはずのそれが、母の手によって、いとも容易く出てきてしまった。



「こんなの持ってたかしら? リナの趣味とは少し違うように思えるけど」

「お母さん。あのさ、このマフラーはちょっと」


しかし、抗議の声を上げようとするより早く、時計を見た母は、焦ったように私にマフラーを押し付けて言った。



「とにかく今日はこれを使えばいいじゃない! 急いで出なきゃ、バスの時間に間に合わないわよ! お母さんももう出なきゃ、遅刻しちゃう!」


そのまま母はバタバタと階段を降りて行く。


押し付けられたモスグリーンのマフラーを見つめ、どうしたものかと思ったが、でももう他のを探している時間もない。

今日一日だけだし、晴人にさえ会わなければいいかなと強引に自分を納得させ、私はため息混じりに家を出ることにした。

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