きみと秘密を作る夜
「家、近いの? 少なくとも私よりはずっと近いよね?」


食い気味に迫られ、私は少したじろいだ。

まさかこの状況で、隣に住んでいるとも言えない。



「お願いがあるの」

「……何?」

「これ、ハルくんに渡してほしいの」


そう言って差し出されたのは、先ほど、調理自習で作ったばかりのクッキーだった。

丁寧にラッピングされた透明の袋の中のクッキーは、ハートの形になっていた。


私はそれを見て、ぞわりと鳥肌が立ったのがわかった。



「えっと。麻衣ちゃん、ちょっと待って」

「修旅の時の話、私本気だよ。リナちゃんも応援してくれるよね? だから、お願い」


麻衣ちゃんの顔は、火が出るほどに真っ赤だった。

クッキーを持つ手が震えていた。



「いや、でも、渡してって言われても」

「同じ町内に住んでるってことは、リナちゃんの方が接点あるじゃない。それでさりげなく私の気持ちも伝えてほしいっていうか。お願いだよ。協力してよ。私たち、友達でしょ?」


泣きそうな顔で、無理やり押し付けられたそれ。

勝手な麻衣ちゃんは、そのまま逃げるようにいなくなる。


クッキーは、私の手の中で、ずっしりと重い。
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